忘れん坊の外部記憶域

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日本は将来食っていけるのか~イノベーションに関するデータ

 VUCAの時代、産業構造や社会情勢が日々変化し続けるこの世界において、将来に不安を覚えるのは当然のことです。

 未来というものは必ず不確実性(リスク)を持っています。誰もラプラスの悪魔にはなれませんし、そもそもラプラスの悪魔は科学の発展によって論理的に否定されてしまいました。零点振動や量子のゆらぎなどが発見された現代社会においては何事も観測するまで不確定であることがもはや明確となっています。未来を確定的に予測することはできず、残念ながら必ず不確実性(リスク)が残るのです。

 不確実であることが不安をもたらすのは仕方がないことですが、しかしその不安の大小はリスクをどう見積もるかによっても変わります。リスクに対する感度は人それぞれであり、さらに言えばリスクの大小すら予測し切ることはできず不確実だからです。だから保険商品が売れるわけですね。

 今回は個々人の未来の不安はさておいて、本当はそれが誰しも一番気になることではありますがそういうのは占い師の方に任せるとして、日本の将来について考えてみたいと思います。

 主題とするのは主に産業関連のみとします。予測精度を上げるのであれば政治や海外情勢、地政、資源、金利、他にも無数の変数を取り入れて相対的に評価する必要がありますが、どのデータをどういう切り口でどう読み取りどうリスクを見積るかというのは結局のところ人それぞれです。言ってしまえば同じホラー映画を見ても人によって驚き方が違うことと同じようなものだということで、今回はその一例を示すのみとします。

 

諸行無常、驕れる者久しからず

 まず大前提として「ずっと食っていける産業」はほとんど存在しません。福祉や葬儀、宗教のように衰退しにくい産業はあるにはありますが、多くの場合はどのような産業においても淘汰圧が発生するものです。よって人々は常に新しい価値や変革、つまりイノベーションを必要とします。産業革命によって工業国となったイギリスが現代では金融国へと変貌したように、そして日立グループが総合電機メーカーから社会インフラとIoTに舵を切ったように、構造を無理に継続するのではなくイノベーションによって新しい構造へと変革しなければいけません。既存の産業に胡坐をかいて現状維持をしようとすればあっという間に淘汰されてしまうことでしょう。

 つまりイノベーションを起こす能力は次なる食い扶持を見つける能力とも言えるわけです。この能力の大小が将来性となります。

 

イノベーションを起こす能力と実際の数

 イノベーションとは新しい技術を発明することだけではありません。アイデアによって既存のものを組み合わせたりやり方を変えたりといった、新しい価値の創造や大きな変革も含んでいます。そのため産業の裾野が広く複雑性が高ければ高いほどイノベーションを起こしやすいと考えられています。その理屈から計算されたものが経済複雑性指標(ECI)です。過去にも取り上げましたが、日本はこの指標において30年以上世界1位を保っています。

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 具体的なイノベーションの数はOECDが統計を取っています。下図は2014~2016年のうちに1つ以上のイノベーションを達成したと報告した企業数のグラフです。

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Business innovation statistics and indicators - OECD

 日本は下位に位置することが分かります。つまりイノベーションを起こす下地はあるがイノベーションを起こせていないことが日本の課題です。

 但しOECDの調査はアンケート方式であり、国民性の差があることも指摘されてはいます。ある事例においてそれがイノベーティブであるかどうかを日米独で比較した結果、アメリカ>ドイツ>日本の順となったという研究結果があることから、日本人は謙虚で恥ずかしがり屋なだけかもしれません。

「『イノベーション』に対する認識の日米独比較」[調査資料-208]の結果公表について | 科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)

 

様々な比較データ

 前述したようにデータは誰がどう切り取るかで変わります。集計者の考える重み付けによって結果は異なるからです。

 例えば東洋大学では主要国を対象としてイノベーションの進展度を評価したグローバル・イノベーション・ランキングを毎年発表しています。2020年の発表結果では日本は25/64位です。

世界の主要64カ国を対象とし、イノベーションの進展度を評価したランキング「グローバル・イノベーション・ランキング2020」を発表しました | Toyo University

 

 類似の指標として世界知的所有権機関(WIPO)が毎年発表しているグローバル・イノベーション・インデックスというものもあります。各国の発表しているデータを元に81の指標で計算しています。2021年の日本の順位は13/132位です。

Global Innovation Index 2021: Which are the most innovative countries?

 

 また世界経済フォーラム(WEF)の発表している国際競争力指標にはイノベーションという項目があります。企業経営者に対するアンケートを用いて採点しています。2017-2018年の日本の順位は8/137位です。昔はもっと上位でしたが、年々ランクを落としています。

The Global Competitiveness Report 2017-2018 | 世界経済フォーラム

 

 このようにどのデータをどう見るかで結果は様々になりますので、どれかに固執するのではなく全体的に見て得手不得手を見極めれば良いかと思います。順位がどうであろうと実際にイノベーションを起こすことが重要であり、次なる食い扶持を見つけなければいけないことに違いはないのですから。

 

 

余談1

 とはいえ私は楽観主義者なので、各指標の内訳をみる限り将来性を悲観するほどではなく、なんとでもなると考えます。現役世代ですので「もう駄目だ」なんて言っている場合でもないですしね。先に述べたようにいつまでも飯が食える産業というものはありません、だからこそ現役世代は飯の種をちゃんと若者に残せる仕事をする責任があると考える次第です。さて、今日も働きますか。

 

余談2

 趣味で様々なデータや指標を見ていますが、この手の国際ランキングで日本の順位を落としているのは大体がGDP、つまり人口動態、失敗国家ランキングの表現で言えば人口構成圧力の増大が原因です。失敗国家ランキングでも日本はこの項目が酷い点数となっています。少子高齢化が日本最大の課題と言えるでしょう。