「中国が軍事(又は経済)で他国へ侵略的な攻勢を行っている」
と聞いて、そんなことはない、そんな悪い国ではないと反発する人を見かけることがあります。
今回はそういった国家間のコンフリクトに関する雑記を。
国際社会の基本
当ブログでも度々述べてきたように国際社会はアナーキーです。統一政府があるわけでもなく権力分立や保障制度も存在しない以上、国際社会は無秩序な無政府状態、すなわちアナーキーであると認識することが国際関係を考える上での前提とする必要があります。
身近で分かりやすい例を言えば、国際社会には警察が存在しません。私たち個人の人間は法を犯せば警察に捕まりますが、国家は国際法を犯したとしても捕まりません。たとえ国際司法裁判所で法的拘束力を持つ判決が下されようともそれを強制的に執行するための存在が無いため、真向から国際法に違反している侵略国家ですら批判はされるものの罰則を強制することができません。
また、国家を一個の個人のように擬人化することも誤りです。国家とは集団であり、そして集団の意思と構成員の意思は必ずしも一致しないためです。
それこそ日本国政府の考えと日本国民個々人の考えは必ずしも完全に一致するわけではないようにです。国家と構成員は必ずしも同じ考えを持ちません。
国家とは一個人のような存在ではなく、むしろ複数の首を持つ空想上の化け物に近い存在です。右手で握手をしながら左手で銃を握るどころか、政府が経済協力関係を結んでいる中で諜報機関が裏工作をして、経済界が悪意無く実質的な経済侵略をしながら民間団体が善意のボランティアで支援活動をする、そういった一個人であれば支離滅裂な意思決定を国家は平気で行います。
独自に意思決定を行う多数の首の総体が国家である以上、国家を擬人化して一個人のように一貫した理性を持つと考えることは国家の意思決定システムを致命的なまでに誤認することになります。
すなわち、国際関係を私たちが日常的に経験している人間関係と同様に捉えることはまったくもって誤りです。国家や国際社会は法と権力の庇護下に存在する一個人である私たちとは異なるレイヤーで捉える必要があります。
善悪の濾過器を取り払う
行政機構や統治機構が存在せず損害を補償する仕組みが無いアナーキーな環境において、プレイヤーは自己保存のために闘争へ身を投じる必要があります。それは善悪で区分することではなく、ライオンがガゼルを捕食する行為が善悪で区分しても意味が無いようにただの自然現象です。
よって国家が他国へ攻勢的な反応を示すことを不思議がったり頭ごなしに否定してはいけませんし、むしろ極めて自然なことだと認識する必要があります。私たちは「悪い国が悪いことをする」といった視点で国際関係を捉えてしまいがちですが、そもそも良い・悪いという物差しを用いること自体が間違いであり、国際関係を考える上では排除すべき考えです。
中国が台湾を囲むように軍事演習を行うことも、過剰生産を行って他国の製造業に貿易戦争を仕掛けていることも、事実としてそうであり、そしてそれは善悪で判定する意味の無いことです。ただそういった事実があるだけに過ぎません。
そもそも悪意の有無なんてアナーキーな国際社会においてはどうでもいい話です。悪意が無かろうが、むしろ善意であろうが、アナーキーな国際社会において各国は生存を確立するため事実に基づいて事実に対応するだけであり、そこに善悪は介在し得ませんし、介在すべきではありません。
中国の軍拡一つ取っても、それが帝国主義的な暗い野望だとしても、国家防衛のための純然たる志だとしても、ただただ政軍や地方権力の綱引きによる内政の結果だったとしても、周辺諸国からすればまったく関係ありません。企図や意思ではなく事実に対応するだけです。
なにも中国に限った話ではなく、ガワが違うだけで西洋社会も同様のことを行っています。環境問題を名目にした欧州による政治的攻勢や非関税障壁はお題目こそ奇麗なものですが他国へ負担を強いるものとなっていますし、アメリカだってトランプ大統領の再任が決まった結果、アメリカ人が他国へ迷惑を掛けてやると意図したかどうかは関係なく、事実としての選挙結果に対して諸外国は右往左往しています。
あるいは過去の日米貿易摩擦あたりが例示として分かりやすいでしょうか。当時の日本がアメリカへ多大な貿易赤字を強いたのは、良いものを安く売るといった商売人の善意であったか、アメリカへの報復的な悪意があったか、そういった善悪の有無は一切関係なく、ただただアメリカ人の財布を守るためにアメリカは行動を起こしました。
このように、国際関係を見る上で『善悪のフィルター』は無用であるどころか事実を曇らせるだけの結果となります。夜にはサングラスを外すように、国際関係を見る際は善悪の視点を外して見なければなりません。
結言
国際社会は善悪で動いているのではなく事実の連鎖で動いています。
その点を理解していないと国際ニュースへの認識を誤りかねないため注意が必要です。