営業「担当じゃないのは重々承知しているんだけど、担当者が分からないそうなのでちょっと教えてくれないか」
私「えー、まあいいですけど」
事業所で技術屋をやっていた頃は営業さんとこんなやり取りが時々ありました。
今年度から本社へ異動してきて企画屋になった今でも、同様のことが時々起こります。
営業「工場の技術者に聞いても分からないって言われたから、ちょっと教えてくれないか」
私「えー、まあいいですけど」
営業さんが「分からない」ことも、技術系の人に問い合わせることも問題ではありません。
ただ、技術屋が営業や顧客に「分からない」と答えることだけは承服しかねます。辛辣ですが、よくもそんな恥知らずなことができるものだと思うばかりです。
「分からない」を言っていい立場ではない
もちろん営業職だって商品に対する技術的な知識を持ち合わせていたほうが販促しやすいでしょうが、メーカーにおける営業の仕事は製品を販売して売上を立てることであり、極論を言えば商品のことを何一つ知らなくても売れれば問題ありません。相手の懐に入る巧みな話術や市場分析に基づく適切な売価交渉と同じで、製品知識は営業ツールの一つに過ぎず、有るに越したことは無いものの無くても他のツールで補える程度のものだと言えます。
対して、メーカーの技術職にとって製品知識はツールではなくコアの部分です。それが無ければ話になりません。言ってしまえば経理知識の無い経理、医術を知らない医者、味噌の入っていない味噌汁です。
技術とはテクノロジーやスキル、アートやクラフト、サイエンスにエンジニアリングにテクニックなどなど非常に多義的な言葉ですが、大まかに分類すれば抽象的な知識を技術、実際にそれを行使する技を技能と言います。例えるならば『安全運転の仕方を知っていることが技術』で、『実際に安全運転をできることが技能』だと言えるでしょう。
よってメーカーの技術者にとって技術とは担当する専門分野の知識を持っていることに他ならず、「分かりません」は論外です。技術者の肩書を背負うのであれば分かっていなければならないのであり、分からないのであれば技術者と名乗る資格も専門職の給与をもらえる椅子に座る価値もありません。
小売業者や問屋が日々商材を仕入れているように、技術者は専門分野や隣接分野においてはいつ何時どんなことを聞かれても答えられなければならず、知識を常に仕入れ続けて必要に応じて展開することが仕事です。必要な知識を持っているから技術者なのであり、技術職の椅子に座っているから技術者になるわけではないのですから。
組織にとっても有害
事は技術者個人のプライドや資格に限った話ではありません。
そもそも営業が技術職に質問を持ってくる場合とは、大抵の場合で顧客からの相談や質問がありそれに対して営業が答えられないからであり、営業の「分からない」は顧客の困りごととほぼ直結しています。
そしてビジネスとは顧客のニーズを満たして対価を得る行為であり、ユーザーの技術的な困りごとを解決して営業が顧客と関係性を構築して製品の販売に繋げることは特にBtoBビジネスの王道ですらあります。
問われているのは目先の些末な課題ではなくメーカーの技術力そのものです。
つまり技術屋が「分からない」と答える行為は顧客からの担当営業マンや会社そのものへの信頼を失墜させて販促活動を阻害させることと同義であり、直接的に会社の営利活動へ被害を与える失言に他なりません。
そんな技術者は不要です。利益を作れないだけならまだしも損失を与えるような人は営利組織にとって害ですので、その椅子を空けてもらい「分かる人」へ入れ替えたほうがよほどマシです。
それだけ技術者の「分からない」は有害な言葉であり、「分からない」が言える立場ではないことを認識してもらう必要があります。
「今から盲腸の手術を始めるけど、実は僕、虫垂の取り方は知らないんだよね」なんて言う外科医がいたら恐ろしい話ですが、「分からない」と答える技術者はそのレベルの存在です。繰り返しとなりますが、技術者は分かっていなければなりません。
結言
「分からない」と答えることは当人からすれば一種の誠実さのつもりなのかもしれません。
万象を把握しているわけでもなく、不十分な回答で相手に損害を与える可能性や保証できない事柄については明言しないことで問題の生起を事前に避けている場合もあるでしょう。
ただ、それは誠実さではなく自己保身です。
できる限りの知識を持って自らの責任で技術を行使することが技術職の職責であり、それによって生じるリスクを含めて受け入れなければなりません。答案用紙を提出しなければ0点であり、たとえ壊滅的であろうとも赤点を取るほうがまだマシです。
それが嫌であれば別の人に椅子を譲ったほうが良いでしょう。如何な理由や正当化があろうと技術を提供できない技術者はそれほどに価値がありません。
技術的な質問に答えられないことは顧客のニーズに応えられていないことと同義です。技術者が「分からない」と答えることは自らの存在価値を全否定する恥辱の極地であると認識し、常に技術を鍛え続けること、最低限この程度のプロ意識が技術者には欲しいものです。