忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

歯医者に行っただけの話

 

 物語とは”物事を語ること”である。

 つまり、ちょっとした日常の事柄を語ることも立派な物語である。極論、日記も物語である。

 そう言い張ってみます。

 

ある日の物語

 奥歯の調子が悪い。

 いや、理由は分かっている、どう考えても虫歯だ。

 だって痛いんだもの。

 ここしばらく忙しさにかまけて医者に行けていなかったが、この歯は歯医者さんにも虫歯の兆候があると言われていた。それを放置して歯医者に行かなければこうなるのは分かり切っていた結末だ。

 とにかく海外出張を控えているのに歯の不健康は宜しくない。

 私は、行かなければならないのだ。

 

 歯医者に。

 

 とにかく時間が無い。直ちに治療をしてくれる歯医者を探そう。

 幸い歯医者はコンビニよりも数が多い。適当に電話していけば直ぐにでも治療してくれるところが見つかるだろう。

 案の定、午前中に電話をしてみたところ一つ目は来週まで予約が埋まっていると断られたが二つ目で当日午後の予約を取ることができた。ちょうど予約のキャンセルがあったらしい。

 ありがとう名前も顔も知らない歯医者の予約をキャンセルしただけの人。貴方のキャンセルで救われる歯もある。

 

 予約が取れれば後は簡単だ。事前に上司には近いうちに半休を取って歯医者へ行く旨伝えてある。報連相は怠りない。

 上司へ報告し、本社の意味不明な勤怠ルールに従い四つのアクションを取る。部内メール、webスケジュール表、web勤怠管理システム、そしてExcelの勤怠表。

 Excel勤怠表の存在意義は分からない。スケジュールも勤怠管理もWebが正で、Excelはコロナ禍の混乱において在宅勤務者を数えるために生まれた謎のマネジメントの名残に過ぎない。だが何故かは分からないがちゃんと編集しないと怒られるので、仕方がなく弄る。二重作業はミスの元だし無駄だと思うのだが、それを止めるための権限は私には無い。

 

 たとえ歯医者に行くのだとしても、まだ明るい時間に職場を去る行為は謎の高揚感をもたらす。そのせいで意味不明な会話をしてしまった。

部長「ニコニコしてるけど何か良いことでもあったか?」

私「いえ、これから歯医者に行きます」

部長「?」

 まあ、ニヤけていたのだろう。傍から見れば変な奴だ。

 

 予約をしたのは通勤途中にいつも見かけていたところで、少しレトロな雰囲気の漂う小さな歯医者だ。

 まあ機材の新旧にそこまで興味はない、腕さえ良ければそれでいい。なにせ私は人並み以上に嘔吐反射が強く、あまり手技の優れないお医者さんに当たると”えづき”が酷く体力気力を著しく消耗してしまう。そうならないためにも巧みな手腕による匠の技を期待する。

 幸い、腕は非常に良かった。一度も嘔吐反射が起こることなく無事に初回の治療を終えて、次回の予約を入れるところまで順調に進んだ。ピカピカの奇麗な新しい歯医者と比べれば機材もプロセスも若干の古さを感じるが、私にとっては治療中に辛くないことが最優先であり、ここは良い歯医者だと判断できる。

 

結言

 何はともあれ、午後に有給を取って歯医者に行った、それ以上でもそれ以下でもない物事を語ってみた。大したことのない日常であっても、文章に起こす行為はなんだかんだ楽しいものである。

 無意味であることに意味がある、これはそういった文章であり、内容が楽しいかではなく、読んだ人が楽しいかでもなく、書いている当人が書く行為を楽しんでいる。

 なんともはや、趣味とは度し難きものだ。