忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

ちゃんとファクトチェックをして欲しい

 

 雑なファクトチェックは宜しくありません。

 

事実を基に

 ファクトチェックとは読んで字のごとく、事実(ファクト)確認(チェック)することです。

 よってファクトチェックで主に用いられるのは事実に基づくデータでなければなりません。一部の例外を除いて、証言や意見による証明は無意味です。事実(ファクト)以外を用いた低品質なファクトチェックを見かけると悲しい気持ちになります。

 

 網羅的に引っ張り出してきて評定するのは大変なので、今回はいくつか適当な事例を持ってきてファクトチェックを見ていきましょう。

 

良いファクトチェックと悪いファクトチェック

 まずは良いファクトチェックです。

 

日本国籍じゃないと党員になれないと明記しているのは参政党だけ? 他政党にも同様の規定【ファクトチェック】

 日本ファクトチェックセンターのこの記事は、『党員や構成員が「日本国籍を有する者のみ」と明記している日本の政党は参政党だけ』とした命題に対して、複数政党の入党資格や規約を参照して他の政党にも同様の規定があることを示して命題が誤りであると判定しています。

 命題を明確に肯定/否定し得る根拠をちゃんと事実を基に提示していることから、これは適切なファクトチェックです。

 

Few Mass Shooters Have Been Transgender - FactCheck.org

 次は英語圏でのファクトチェック専門機関の大手FactCheck.orgの記事です。『銃乱射事件の犯人の多くはトランスジェンダーだったのか?』とした命題に対して、銃関連暴力を追跡するアメリカの独立機関Gun Violence Archiveの集計データを引用して、過去12年間の銃乱射事件のうちトランスジェンダーが関与した事件は0.1%未満であることを示した上で命題が誤りであると判定しています。

 命題を明確に肯定/否定し得る根拠をちゃんと事実を基に提示していることから、これも適切なファクトチェックです。

 さらに厳密なファクトチェックを進めていくのであれば、GVAのデータが適切にトランスジェンダーか否かを集計できているかなどの方向で深掘りすることができるでしょう。

 

 最後に悪いファクトチェックの事例を示します。

Fact-checking what Trump said about climate change during the UN General Assembly - ABC News

 2025年9月23日に行われた国連総会においてトランプ大統領が気候変動に対して疑わしい発言をしたことへのファクトチェックとしてABCニュースがファクトチェック記事を公開しています。

 この記事ではトランプ大統領のいくつかの発言に対してそれぞれファクトチェックが行われていますが、少し焦点がズレています。

 例えば『欧州の指導者たちが再生可能エネルギーの導入を決定し、ドイツが再生可能エネルギーへの取り組みを撤回したため、欧州は財政的に苦境に立たされていると述べた』とした命題を取り上げてみましょう。

 それに対するファクトチェックでは、ドイツ連邦経済エネルギー大臣が「再生可能エネルギーの拡大は間違いなく大きな成功で、ドイツの電力の60%が風力、太陽光、その他のエネルギー源から供給されていると述べたこと、ドイツのエネルギー転換が「岐路に立っている」ことを強調し、「成功、信頼性、供給の安定性、手頃な価格、費用対効果に焦点を当てる必要がある」と述べたこと、2030年までに電力の80%を再生可能エネルギー源から調達することを約束していることを示しています。

 これは残念ながら命題の肯定/否定に繋がらない情報提示です。

 大臣が成功したと発言した証言や、大臣が将来の方針をどう考えているかの意見は命題である「欧州は財政的に苦境に立たされている」を肯定/否定する事実とはなりません。この命題の肯定/否定を確認するためには欧州の実際のお財布事情や電気代の変遷といった事実(ファクト)確認(チェック)しなければなりません。

 

 他にも、『気候変動の影響に関する国連の予測は現実にはなっていない、誇張されているか不正確であり「世界が仕掛けた最大の詐欺行為」と述べた』とした命題に対しては、人為的な気候変動には圧倒的な科学的証拠と科学者のコンセンサスがあること、IPCCやアメリカの国家気候評価とは対照的であることを示していますが、これも同様に命題の肯定/否定とはなっていません。

 気候変動は未来予測的な側面を持っており、必然的に不確実性があることから、そのためにIPCCではSSPシナリオと呼ばれる予測パターンが複数あります。そしてシナリオのうち、SSP4-7.0とSSP5-8.5は極端な未来予測のために想定された非現実的な誇張されたシナリオです。現実にはそこまで極端な結果になることはなく、気候変動対策や緩和策が進んでSSP1-2.6やSSP2-4.5で予測された推移を辿って温暖化が進んでいくと考えられています。

 つまりファクトチェックとしては、予測には誇張されているものもあることは事実、しかしそれは科学的に極端事象を検証するためであり詐欺ではないとして、命題は一部不正確と判定することが妥当でしょう。

 まあ、これに関しては目立って極端な結論が出るSSP5-8.5シナリオを用いた研究ばかりを学者やメディアが人々の興味を引くために紹介することも一因ではあるのですが、いずれにしてもそれを詐欺と呼ぶのは誇張です。

 

結言

 悪いファクトチェックは結論ありきで命題を肯定/否定しようとするため、証言や意見を文脈的に用いたり、的を射ない事実を引用してしまいがちです。

 ファクトチェックに必要なのはそういった先入観を排除して徹底的に事実だけで比較する視点であり、先入観で構成されたフェイクニュースをチェックする側が先入観に囚われるようでは困ります