忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

サボるのではなく、手抜いて省く

 「適当」という言葉はややこしいですよね。ちょうどいいくらいという意味といいかげんという意味があります。いい加減なのか、好い加減なのか、使い処によって意味合いがほぼ真逆に変化してしまいます。

 手抜くという言葉も同様です。辞書的な意味では必要な手順を省く、いい加減な仕事をするというマイナスな言葉ですが、本来的な意味としては囲碁や将棋で用いられる攻め込まれている場所ではない良いところに手を指すという前向きな意味を持っています。駒がぶつかったり石を取り合っている戦場に手を入れるのではなく、戦局全体を見渡してより有利になる地点に手を入れるということです。初級者は目先でぶつかり合っている地点にだけ戦術的に目がいってしまいますが、上級者はもっと全体を見て戦略を組み立てるために手抜きをします。

ベテランは手抜きをする

 仕事において、若手のうちはルールや決まりに基づいてしっかりと1から10まで順序立てて行ったほうが良いです。ルールや決まりは何らかの意図があって制定されたものであり、若手から見て無意味に見えるものにも何らかの経験による対策や効果といった目的があるのです。

 もちろん陳腐化して無意味になったルールも実在するのではありますが、それでも若手のうちはルール通り仕事をしたほうが無難です。無駄なルールを守ることによるロスは会社の損失ですが、「ルールを守らない奴だ」と認識されてしまうのは若手個人の損失になってしまいますので。ルール、つまり約束事を守れない人間だと認識されるのは大変に痛手です。無意味なルールは破るのではなく、せめてルールを変える方向に動いたほうが良いでしょう。

 しかしながらルールを変えるというのはなかなかに手間が掛かります。今までそれで上手く回っていたんだからいいじゃないかというバイアスが働き、保守的かつ硬直的な見方が主流となりがちです。

 そのため、ベテランはルールを変えることが基本ではありますが、状況によっては手抜きをするようになります。というよりも「ルールをしっかりを覚えて手抜ける箇所を理解する」ことができて初めてベテランの域です。若手の手抜きはサボりやズルが目的ですが、ベテランの手抜きは必要な個所に焦点を当ててリソースを注ぐという効率化が目的なのです。冒頭で書いたように手抜きの意味合いが若手とベテランでは異なります。

ベテランの例

 例えとして、工場の生産現場におけるベテランを出してみましょう。

「生産設備が壊れてしまいました、どうすればいいでしょうか。」

「まずは計画の佐藤さんに連絡をしてくれ、状況によっては生産計画を変更する必要があるから事前に話を通しておこう。彼の上司である田中課長には佐藤さんに報告してもらってくれ、決定権は田中課長にあるから動いてもらわないとな。次にこの設備を担当している鈴木さんを急いで探してきてくれ。彼の居場所はこの時間であればあそこだろう。恐らく別件で忙しくしているから先に上司の加藤課長から許可をもらったほうがいい。先に捕まえて説明しておいてくれ、依頼書類は後回しでいいから。製造ラインのリーダーは現場に居るかい?じゃあ僕は現場の様子を確認に行くとするか。鈴木さんが来る前に設備の故障状況を整理しておこう。ついでに仕掛の状況を佐藤さんに報告してあげないとな。」

 キーパーソンを把握し、不要な手順は省き、状況に応じて手順を入れ替え、優先すべき事項に注力して最適な結果を出すために行うのがベテランの手抜きというものです。トラブルが発生した、さあ規定通り書類を用意しよう、なんていうのはベテランとは呼べません。もちろんこのような手抜きはルールをしっかりと覚えて使いこなせるようになってからでなければ出来ません。そうでなければルール違反で処罰の対象となりますし、安易なルール違反は大変に危険です。

まとめ

 若いうちに仕事を手抜くとロクなことがありません。ルールや決まりを覚えられないばかりか、あいつはルールを守れない奴だと悪い評価を受けてしまいます。若いうちは真面目に律儀に仕事をするほうが長い目で見れば遥かに効率的です。またルールは何らかの意図があって制定されたものであり、安易なルール違反は若手の知らない所で大きな問題を引き起こす危険もあります。

 しかしベテランになったら仕事や問題を受け取った際にはまずは手抜ける箇所を考えることを意識しましょう。この手抜きはサボりやズルという意味ではなく、より全体が効率的になるよう無駄を省き必要なところへ注力するための行為です。安全で適切な手抜きをするためには若手のうちにルールを熟知する必要があります。

 もちろん安易にルールを破ることを推奨しているわけではありませんが、いい加減という意味ではない本来の意味の手抜きができるようになって初めてベテランと言えるのです。

余談

 手抜きに関しては教育が大変に難しいです。当然ながらルールは遵守することを絶対としなければいけません。しかし完全主義や教条主義に陥ることも望ましくないため、とにかくルールさえ守っていれば良しという考え方も避けなければいけません。何事も程度問題でありバランスが大切なのですが、なんとも難しいものです。