忘れん坊の外部記憶域

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コンフリクト(軋轢)のある組織は健全である

 異なる意見には価値があります。単一の意見では見えていなかった問題点を見つけて論理の穴を塞ぐ、もしくは止揚することにより、より良い意見への発展を期待できるからです。曇りひとつない完璧で美しい意見よりも反証によって叩きあげられた意見の方が現実においては有用な場合が多くあります。

 意見が対立・衝突・摩擦することをコンフリクト(軋轢)と言います。

 人によってはコンフリクトの発生は避けるべきだと考えるでしょう。確かにコンフリクトの一切無い温和な状態は一見平和的に見えます。また個人間ではわざわざコンフリクトを発生させるべきでない状況も多くあります。

 しかし組織においてはそうとは限らず、組織がコンフリクトを避ける状態というのは実のところ大変危険です。異なる意見を擦り合わせ、調整し、より良い結果をもたらすためにもコンフリクトは必須なのです。

 

コンフリクトを避ける組織

 上意下達、上が意見を発すれば下は黙ってそれに従う、それぞれの立場の人間が目的に沿って黙って行動し、一切のコンフリクトが発生しない、そのように整然と組織が運用されている状態はとても合理的に思えます。

 しかし忘れてはいけないこととして、人は必ず間違いを犯します。どれだけ仕事に熟達していようと目的意識を持っていようと注意をしていようと、必ずです。

 コンフリクトを避ける組織文化を持っている場合、その組織では間違いが存在しないものとして扱われるようになります。上の人間はコンフリクトの元となる間違いを認めたがらず、下の立場の人間もコンフリクトを避けるため上に忖度をして間違いを隠蔽するからです。

 運が良いうちは下の者による修正が上手く行われて問題は抹消されます。しかし隠蔽された間違いは組織の集合知として蓄積されないため、間違いの発生を予防できず各所で常に再発のリスクを抱えることになります。そして間違いがまったく起きないことはあり得ないことから、いずれ幸運な無事故期間を終えて致命的な間違いの発生を迎えることとなるのです。

 コンフリクトを避ける組織は安定的に見えるかもしれませんが、不安定状態に陥った際の回復力(レジリエンス)が著しく乏しいと言えます。

 

なぜコンフリクトを避けたがるか

 人と意見を衝突させるのは労力が要りますし、心理的にも肉体的にも負担が掛かることから、個人の心情としてコンフリクトを避けたいという気持ちは分かります。それはつまり組織として意思を持ってコンフリクトを歓迎する文化を作らなければ組織は自然とコンフリクトを避けるようになってしまうということでもあります。

 また人員が硬直的な組織や官僚組織、歴史が長く前例主義に陥った組織のように、減点主義である組織にもコンフリクトを避ける傾向が見られます。コンフリクトは大変なものですので、それを発生させた時点で減点されかねないからです。

 反面、減点を恐れている場合ではなく加点を稼がなければ食っていけない加点主義である組織、例えばベンチャーやスタートアップ企業ですが、これらではコンフリクトはむしろ歓迎されるものとなります。

 コンフリクトは大変なことから発生を許容するには組織が心身ともに健康である必要があります。硬直した組織はそれに耐えることが出来ないためコンフリクトを避けるのです。つまり、コンフリクトのある組織こそが健全なのです。

 

良いコンフリクトと悪いコンフリクト

 ここまでコンフリクトは避けるべきではないという論調で書いてきましたが、厳密に言えば少し分類が必要です。

 意見の衝突には大きく分けて二つのパターンがあります。組織における役割や立場、具体的事象や持っている情報の差、経験や感性に基づく認知差というようなものが衝突する本質的コンフリクトと、そういった本質的情報ではなく好みや意向が衝突する感情的コンフリクトです。

 例として、新製品を求める営業部門と市場情報を求める開発部門の衝突、売り上げ目標のために行動を求める上司と現場のリソース改善を求める部下の衝突、メンテナンスと新規設備導入の予算取りにおける衝突など、それぞれの考える意見が衝突している状態が本質的コンフリクトです。

 反対に、上司に好印象を与えたいため部下に無理やり仕事を押し付けるようなことや、あの人の仕事は受けたくない、態度が気に食わない、といった好き嫌いによって意見が衝突することを感情的コンフリクトと言います。

 本質的コンフリクトは歓迎すべきものです。意見をぶつけ合い擦り合わせることによって目的に沿った最適な落とし処を見つける必要がありますし、互いにより良い結果となるよう調整すべきです。

 感情的コンフリクトは可能な限り避けなければなりません。それはどれだけ意見をぶつけ合ったとしても畢竟「自分の思うままにできる」という自己満足が目的となっており、組織の目的に資することは無いからです。組織としてはそのような目的のすり替えを歓迎する理由はありません。

 また、感情的コンフリクトは【意見】と【人格】を混同してしまう危険性を持っています。人の【意見】と【人格】は別物です。状況や立場によって同じ人でも意見が異なることはあります。本質的コンフリクトは【意見】のみを取り扱うため遺恨が残ることはありませんが、感情的コンフリクトに至ると相手の【意見】だけでなく【人格】まで否定しかねません。それはとても後味が悪いものですし怨嗟の念が残りますので、控えたほうが良いでしょう。

 

 健全で回復力の高い組織を運営するためには、本質的コンフリクトを歓迎する文化を構築する必要があります。