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女性・ビジネス・法律~Women, Business and the Law2022を見る

 3月1日に【男女格差、日本103位に急降下 世銀、経済的な権利で調査】というようなセンセーショナルな記事が共同通信や一部の報道機関から報道されていたため、スコアに興味が湧きました。今回は元となる調査結果についてデータを見ていきましょう。

 

Women, Business and the Lawとは

 Women, Business and the Law(女性のビジネスと法律)は世界銀行が毎年公表している女性のビジネスと法律に関するデータです。

 ビジネスと法律において女性の権利がどの程度阻害されているかを、【移動性(Mobility)】【職場(Workspace)】【給与(Pay)】【結婚(Marriage)】【親子関係(Parenthood)】【起業(Enterpreneurship)】【資産(Assets)】【年金(Pension)】の8つの項目によって分析しています。

 それぞれの項目において4~5の設問があり、各項目を100点満点で計算した後に平均を取ったものをWBL Indexとしています。ただしIndex(指標)と銘打たれてはいますが、各所様々な専門機関の出すIndexと比べれば大変単純な採点方法を採用しており、例えば【移動性(Mobility)】の項目であれば

  • 男性と同じように住むところを選べるか
  • 男性と同じように自宅の外に旅行に行けるか
  • 男性と同じようにパスポートを申請できるか
  • 男性と同じように海外旅行に行けるか

という設問に対して、Yesであれば1つにつき25点、合計100点、とされています。設問ごとの重み付けがあまり考慮されていないため、何点かよりも何をもって失点しているかを見たほうが良さそうです。

 WBL Indexが100点の国は12か国で、欧州の国々とカナダが1位です。

 日本のスコアは78.8点で、2022年での順位は103位です。日本のスコアは2011年以降ずっと78.8点のままですので、順位が下がったのは他国のスコアが上がったことが理由です。

 

日本のスコア詳細

 項目ごとのスコアは次のようになっています。

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 個別の項目ごとに何をもって失点しているかを見ていきましょう。

【職場(Workspace)】

 この項目は4つ中2つの設問で失点しています。

  • セクハラに関する法律はあるか
  • セクハラに対する刑事罰や民事上の救済措置はあるか

 日本では男女雇用機会均等法によってセクハラ防止措置の義務付けはされており、悪質なセクハラは傷害罪や強要罪等が適用されます。しかしセクハラに特化した刑事罰や民事上の救済措置に関する法律は無いため、この2設問について法整備が不足しているとして減点されています。

 ハラスメントは社会問題になって久しく、すでに十分社会に周知されたと思いますので、より働きやすい職場を目指すため法整備を進めるべきでしょう。

【給与(Pay)】

 この項目は4つ中3つの設問で失点しています。

  • 同一労働同一賃金であるか
  • 男性と同じように危険な労働へ従事できるか
  • 男性と同じように工業的な労働へ従事できるか

 同一労働同一賃金については日本で法改正されたばかりのため、まだ指標に反映されていないようです。今後はこの設問での失点は無くなるでしょう。

 危険な労働とは重量物を取り扱う業務や有毒ガスがある場所での業務を指します。日本でも通常規制はしていないのですが、労働基準法第64条の3において一部の女性の方の労働が制限されています。

(危険有害業務の就業制限)
第六十四条の三 
 使用者は、妊娠中の女性及び産後一年を経過しない女性(以下「妊産婦」という。)を、重量物を取り扱う業務、有害ガスを発散する場所における業務その他妊産婦の妊娠、出産、育等に有害な業務に就かせてはならない。

 また工業的な労働とは建築業、農業、工場、交通機関のような労働を指しており、基本的に規制されてはいないのですが、唯一鉱業だけは制限されています。

(坑内業務の就業制限)
第六十四条の二 
 使用者は、次の各号に掲げる女性を当該各号に定める業務に就かせてはならない。
 妊娠中の女性及び坑内で行われる業務に従事しない旨を使用者に申し出た産後一年を経過しない女性 坑内で行われるすべての業務
 前号に掲げる女性以外の満十八歳以上の女性 坑内で行われる業務のうち人力により行われる掘削の業務その他の女性に有害な業務として厚生労働省令で定めるもの

 危険な労働や鉱業の制限は女性の方の安全を考えれば許容されるべきか、平等のためにも制限を廃止すべきか、これについては議論が必要と考えます。

 私は頭が古い人間なのでこの制限は許容してもいいのではないかと思うのですが、しかし職業選択の自由を考えればわざわざ制限する必要は無いとも言えますし・・・当事者である女性の意見を聞いて取り入れるべきですね。

【結婚(Marriage)】

 この項目は5つ中1つの設問で失点しています。

  • 男性と同じように再婚の権利があるか

 これは民法で女性にだけ不利益となることが定められています。

(再婚禁止期間)
第七百三十三条 女は、前婚の解消又は取消しの日から起算して百日を経過した後でなければ、再婚をすることができない。
 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
 女が前婚の解消又は取消しの時に懐胎していなかった場合
 女が前婚の解消又は取消しの後に出産した場合

 男女平等を期するためには男女ともに百日の期限を設けるか、もしくは期限を廃止するか、どちらかに寄せてしまったほうが良いかと思います。

【起業(Enterpreneurship)】

 この項目は4つ中1つの設問で失点しています。

  • 法律で性別による信用供与の差別は禁止されているか

 これは制限されているというよりも該当する法律が単純に無いことが失点の理由です。ただし性別による与信基準のバイアスは起こり得るものですので、法律で規制するのは良いかと思います。

 

結語

 Business and the Lawが示す通り、法整備の不足や不当な制限が主に失点となる指標でした。逆に考えればその他の指標と比べて法律を改正するだけで改善可能な指標とも言えますので、政治家の方々にはぜひ法律を見直して新たに立法してもらいたいです。