忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

人身売買に関する米国務省の報告書について:Trafficking in Persons

 米国務省の報告書で日本の技能実習制度が問題視されている、という記事を見かけましたので、簡潔にまとめます。

 ちなみに私は技能実習制度のことを、制度設計を失敗していて悪人が悪用できてしまう失敗制度だと思っていますので、今回は少しダークで辛口な視点になります。

nordot.app

(記事から一部引用)

米国務省は19日、世界各国の人身売買に関する2022年版の報告書を発表した。日本で外国人技能実習制度の参加者が「強制労働」をさせられているとの報告があると指摘。人身売買に関与した悪質な仲介業者や雇用主の責任を日本政府が追及していないと批判し、4段階評価で上から2番目のランクに据え置いた。

人身売買に関する報告書について

 人身売買に関する報告書(Trafficking in Persons Report)はアメリカの国務省(日本で言う外務省に相当)が毎年発表している報告書です。連邦法の人身売買被害者保護法(TVPA)を準拠できているかによって各国の4段階評価、及び勧告等がなされます。

www.state.gov

 人身売買というと鎖に繋がれた奴隷を想像しがちですが、これは商取引上における人の不正な取り扱いということです。強制労働や身代金、不適切な労働環境や給与、強制債務や詐欺、力による服従、性産業への強要など、現代における奴隷的労働を意味しています。

 

 今回、日本は4段階評価で上から2番目のランクに据え置いたことが問題視されています。これがどういうことを意味するかは段階の具体的な内訳を見なければ分かり難いでしょう。

 人身売買に関する報告書の評価は以下の4段階です。

Tier1:政府が人身売買撲滅のための最低基準を完全に満たしている国

Tier2:政府が人身売買撲滅のための最低基準を完全に満たしていないものの、その基準を準拠するために多大な努力を行っている国

Tier2 WATCH LIST:政府が人身売買撲滅のための最低基準を完全に満たしていないものの、その基準を準拠するために多大な努力を行っている国(人身売買が増加していたり、取り組みの効果を確認できない国)

Tier3:政府が人身売買撲滅のための最低基準を充分に満たしておらず、そのための多大な努力を行っていない国

 もっと簡単に言ってしまえば、

Tier1:ちゃんと人身売買を取り締まれている国

Tier2:頑張っているけど人身売買をちゃんと取り締まれていない国

Tier2 WATCH LIST:頑張っているけど人身売買をちゃんと取り締まれていない国(要監視、本当にちゃんと頑張ってる?)

Tier3:人身売買が盛大に行われている国、改善の努力もしていない国

 4段階評価で上から2番目のランクに据え置いたというのは、上から2番目にいるからまだマシという意味ではなくお前の国は人身売買をちゃんと取り締まれていない人身売買国家だぞ、という意味です。

 2022年の報告書におけるTier1は、ざっと見てもカナダ、フィンランド、フランス、ドイツ、オランダ、シンガポール、スウェーデン、イギリス、アメリカ、というような主要国が並んでいます。Tier2にいる主要国はイタリア、日本、韓国、デンマーク、ノルウェーなど一部のみです。

 なお、今年の報告書で急に問題視されたという話ではなく、昔から日本のこの点を米国はずっと問題視しています。日本は2018年と2019年の2年だけTier1にいましたがそれ以外はずっとTier2評価です。

 

日本への指摘・勧告に関して

 過去数年の報告書をざっと読みましたが、大きく指摘されているのは2つ、技能実習制度性的人身売買です。特に技能実習制度が最大の紙幅を持って指摘されています。

 アメリカの人身売買被害者保護法やこの報告書は、法律の有無や制度の構造だけでなく実際に当局が取り締まれているかを重視しています。そのため、例えば2016年に日本で公布された技能実習法も、罰則が適切に適用されて犯罪業者の活動を抑止できているかが見られています。

 実際、報告書の内容は「日本政府や法執行機関は多大な努力を払っているが、一部の人身売買業者は罰金で済んでいる。懲役刑でなければ抑止効果が弱いため、活動を阻止できない。罰金なんて温いこと言ってねえで人身売買業者をちゃんと牢屋にぶち込め」というような趣旨です。

 

 技能実習制度の詳細まで論じていくと長くなるので控えることとしますが、私見としては労働者として雇用するための法整備が不適切であったと考えています。だから人身売買ブローカーが制度を悪用できてしまっているわけで。

 技能実習法を作るなど徐々に改善傾向にあるのは間違いないのですが、個人的には米国務省の勧告に大変同意しています。温いことを言ってないでブローカーはどんどん摘発して牢屋にぶち込んでもらいたいです。

 

 

余談

For the fourth consecutive year, the government did not report law enforcement action taken against child sex trafficking in Joshi kosei or “JK” businesses—dating services connecting adult men with underage high school girls—and in coerced pornography operations. 

JKビジネス(成人男性と未成年の女子高生をつなぐ出会い系サービス)や強制ポルノ事業における児童の性売買について、政府は4年連続で警察による取り締まりを報告していない。

 ここ数年の報告書で毎度書かれている内容ですが、米国務省という真面目な政府機関にJK(Joshi kosei)とか書かれて勧告されるのは・・・ねぇ。