人の時間は有限であり、仕事は成果で評価されるものであり、結果は行動が無ければ伴いません。
そのためサボり癖は社会的にあまり望ましい特性とはされないものです。
ただ、極めて個人的な好みではありますが、私は同僚や後輩として一緒に働く人の特性には「真面目なサボり屋」を好む習性を持っています。
面倒なことを面倒なままやるのは面倒
私の業務には物質の物性データから性質を計算する仕事があります。装置が稼働している際に内部の物質がどのような挙動を示すかを熱力学的・流体力学的に計算する仕事です。
状態は多数、物性は多変数、数式は複雑、この計算はそこそこに面倒だったりします。
そういった面倒なことが私は嫌いです。
「は?この数百条件を手計算する?この物性表から読み取って?各状態の変数は・・・いっぱいだぁ」
「こんなの手計算してたら何日掛かるか分からんし、どう考えても計算ミスるだろ常識的に考えて。昔の人はよくこれを手計算してたもんだ」
「物性表はスキャンしてOCRで読み込もう、個別に手打ちなんかやってられん」
「物性表はどうせ別の計算でも使うんだから各物質毎に全部電子化しておこう」
「計算すべき条件だけ手入力するようにして、その時の状態変数は読み込んだ物性表から検索して自動で持ってくればいいな。そうすれば違う物質で計算する時も物性表のデータだけ差し替えれば転用できるし」
「後々のメンテナンス性を考えると、まあ、好みじゃないけどExcelで作るかー。好みじゃないけどVLOOKUPで作ったほうが他の人が使うときに見やすいか・・・嫌だ、INDEX/MATCHにしよう、意味不明な美意識だけどVLOOKUPは美しくない」
「引っ張ってきた物性データから計算するのは関数で簡単にできるな」
「これで必要な条件をちょろっと入力するだけで計算結果が出るようになった。今後同じ仕事をする時は1分以内に計算結果を出せるぞ」
「中身の関数を見れば何やってるかは分かるとは思うけど、一応、計算の説明と作業マニュアルを一緒に置いておこう」
「よし、各所には数日掛かる業務と伝えてあるから、これからは計算が必要になる度に数日分サボれるな、浮いた時間で別の仕事でもするか」
サボるために頑張る
真面目なことはとても素晴らしい特性です。得難い資質であり、一緒に働くのであれば何はともあれ真面目な人が理想的です。
ただ、注意が必要なこととして、真面目であることと行動の形態は必ずしもリンクしません。
真面目というのは物事への態度であり、行動を意味するものではないからです。真面目に愚直に働く人もいれば真面目に悪行へ勤しむ人もいます。真面目に真摯に行動する人もいれば真面目にふざける人だっています。真面目であることは必ずしも善ではなく、真面目から出力される行動にこそ意味があるものです。
対してサボり癖というのは態度と行動の2パターンがあります。やる気がなかったり物事に対して真剣でないような態度としてのサボり癖と、つい意識を逸らしてしまったり集中を切らしてしまうような行動としてのサボり癖です。
結果としてはどちらもサボりという出力をするものですが、後者はこの性質を"真面目な態度"で活用すれば別の結果をもたらします。
つまり、個人の性質としてつい行動をサボってしまうのであれば、むしろそれを欠点ではなく利点として活用する真面目なサボり屋になれば良いのです。
長時間集中力が続かないのであれば短時間で処理できるような方法を真面目に考えて導入し、そもそも集中しなくても結果が出る方法を考える。
手間が嫌いであれば手間を掛けないように、面倒な仕事が嫌いであればそれが面倒でないように、プロセスそのものを改変して楽をする。
真面目なサボり屋はそういった前向きな改善活動に適性がある、なかなか優秀な素質だと思います。
結言
「怠惰を求めて勤勉に行き着く」が好きな言葉の一つです。不真面目なサボり屋は行動そのものをボイコットするため宜しくないですが、真面目なサボり屋は行動そのものではなく行動に付随する労苦だけをボイコットできるはずです。