マネジメントを実施している人の一部では「完璧主義への欲求」や「リスクを無くすことへの欲求」が心の中に沸き起こります。チーム管理やプロジェクト遂行において一切の瑕疵が無い100点満点をゼロリスクで達成しようと追及したくなる欲求です。
それらは時に費用対効果を無視した形ですら発露して、チームを険悪にし、プロジェクトの採算を悪化させ、時にはチームやプロジェクトの崩壊すら招きます。
しかしながらそういった欲求はマネジメントの本質からは逸れたものです。
完璧へ到達すること。
あるいはゼロリスクへ到達すること。
それらはマネジメントの領分ではありません。
今回はそんなマネジメントの抱える宿痾に関して言及していきます。
マネジメントの目的
もちろん気持ちは分かります。マネージャーはチームやプロジェクトの責任者であり、チームが最大の成果を出すことやプロジェクトのリスクを低減することに責任を負っており、それらに対して腐心することはマネージャーの責務です。
ただ、マネジメントとは完璧へ到達することやリスクをゼロにすることが目的ではないと肝に銘じておく必要があります。
少ないリスクで最大の成果を出すことと、リスクゼロで完全な成果を出すことは意味合いが異なります。
いくつか例示してみましょう。
■100万円の投資で1000万円の売上を出力するマネージャー
■200万円の投資で1050万円の売上を出力するマネージャー
出した出力で言えば後者のマネージャーのほうが大きいですが、利益という名の成果を考慮すれば前者のマネージャーのほうが優れています。
■100万円を使って損失リスクを1%にするマネージャー
■100億円を使って損失リスクを0%にするマネージャー
リスクを少なくするのであれば後者のマネージャーのほうが有能ですが、通常であれば前者のマネージャーのほうが現実的な成果を出していると判定できるでしょう。
もちろんこれらは数字やパラメータによって意味合いが異なります。
もしも200万円の投資で2000万円の売上を立てられるのであればそのほうが優れていますし、売上100兆円の組織であれば100億円を使ってでも損失リスクを0%にしたほうがトータルで見ると有益です。
この点が重要で、これらの例示から分かるようにマネジメントの仕事は単純に最大の売上を出すことやリスクをゼロにすることではなく、リスクを最小にしつつ成果を最大にすることです。どこにどれだけ資源を投入すればどのような成果が得られるかを勘案して最適解を模索する行動がマネジメントであり、マネジメントは費用対効果から逃れることはできません。
この点に無理解なマネージャーは成果ではなく目先の数字の最大化やリスクを最小化するために、費用対効果を無視した浪費や成果に繋がらない無意味な活動へと冒進することになります。
マネジメントの方法
マネジメントに近い概念としてコントロールがありますが、しかしこれらは近いだけでまったく異なる概念です。どちらも対象へ何かしら働きかける行動を意味する言葉ですが、マネジメントは「対象の行動を制御する」ことを意味し、コントロールとは「対象を思うがままに動かす」ことを意味しています。
この差異は少し分かりにくいので具体例を出してみましょう。
子どもに勉強をさせて成績を上げることを目指すとして、勉強ができる環境を整えたり勉強するよう催促する行為がマネジメントです。対して子どもを椅子に縛り付けて後ろから監視して無理やりにでも勉強させる行為がコントロールです。
マネジメント(管理)とは対象を思い通りにコントロール(支配)することではありません。そしてマネジメントが対象とする多くは他人や外部環境であり、それらをコントロールすることは物理的にも倫理的にも現実的ではありません。
かつてはチームメンバーに行動を強制したり部下の一挙手一投足を指示したりするようなものが管理とされていましたが、そもそもそのように無理やりコントロールしても望む結果が得られるとは限らないことが今では分かっています。
子どもを椅子に縛り付けても成績が上がるとは限りません。手段が目的化してしまうようなやり方は不適切です。だからこそ現代ではマネジメントの概念が開発されて成果を出しやすくするようなアプローチを行うことが適切だと考えられるようになりました。時代遅れのコントロールにもはや居場所はありません。
結言
100点満点を取りたい。
リスクをゼロにしたい。
その気持ちは分かりますが、それらの欲求はマネジメントの責務や目的から生じているのではなく、責任を回避しつつ承認を得たい当人の欲求に過ぎません。気持ちは分かるものの、肯定できない感情です。
そのような感情を下地にマネージャーが意志決定を行うと必然的にマネジメント(管理)ではなくコントロール(支配)を行うようになります。
しかしマネージャーがコントロールをしたからといって実際の結果に繋がることは保証されず、むしろ目的である成果の最大化を無視して費用対効果を損ねる無意味な施策へと感情のままに走りかねません。
見た目の数字を最大化するのではなく、成果を最大化することがマネジメントです。
リスクをゼロにするのではなく、費用対効果に基づいたリスク対応をすることがマネジメントです。
この点を誤解したマネジメントは、あまり適切ではないと考えます。