製造業で働く人間の戯言。
日本の屋台骨
バブル崩壊後、大手電機メーカーの不振を筆頭に日本の製造業の凋落を語る言説を各所で見かけます。その中でも特に強い言葉として用いられているのが製造業の不振に託けた「科学技術立国の凋落」と言った表現です。
とはいえ、凋落といっても製造業全体で見れば分野ごとの浮き沈みはあって当然ですので、それを全体に適用する意味はないと思っています。例えば算数の成績が悪い山田君を「山田君は勉強ができない」とまで広げることは不適切で、それはただ「山田君は算数が苦手」の範囲に過ぎません。
よって個人的には製造業に対しても「ふ、電機がやられたか、しかし奴は四天王の中でも最弱」くらいの気分なものです。
そもそも製造業自体が極めて裾野の広い業界であり、その一分野の凋落と全体の凋落はまったく別の問題です。もちろん世間一般の人からすれば身近なBtoC企業しか目に入りませんので製造業の実情など知りようもないことではありますが。
なんにせよ、業界の浮き沈みについては個々の企業の部分的な事例ではなく全体のデータを基に考察することが適切です。
例えば内閣府のGDP統計におけるGDP構成比の推移からみてみましょう。
グラフ化すると以下のような推移です。
トレンドとしては下降ですが、それでも底堅く20%程度を維持していることが分かります。製造業の衰退と言ってもこんな程度のものです。なにも売るものが無くなったり他国に競争で負けて企業がどんどん倒産しているわけでもなく、ちゃんと売れるものを作って売っています。
他国と比較すればもう少し分かりやすいかもしれません。
引用元:データブック国際労働比較|労働政策研究・研修機構(JILPT)
アメリカ・イギリス・フランスなどとは異なり、日本やドイツ、スウェーデンや韓国は製造業がGDP比で高い比率を維持しており、それだけ堅牢な製造業を保有していることが分かります。
少なくとも製造業全体の凋落を謳うのであれば、かつて製造業で世界を席巻していたアメリカやイギリスくらいまで製造業が落ち込んでからです。少なくとも日本の製造業は今なお国家経済の屋台骨であり、凋落を嘆くような段階ではないと考えます。
そもそも科学技術立国とは何ぞや
そもそも論として、製造業の不振と「科学技術立国の凋落」はイコールで繋げられるものかも疑問です。
”立国”は技術立国・観光立国・デジタル立国などなど安易に用いられがちな言葉ではありますが、言葉の意味は「ある考え・仕方で国を繁栄させること」です。
つまり科学技術立国とは『産業技術・科学技術などを育成し、それらに基づいて国を発展・繁栄させていくこと』を意味する言葉であり、企業の不振と科学技術立国かどうかは無関係です。科学技術立国か否かは製造業の景況に関わらず、国家が科学技術へ適切に投資を行っているかどうかで決まるものだと言えます。
科学技術への投資は政府主導のものもあれば民間主導のものもあることから単純比較が難しいものです。
ただ、立国と名乗るからには政府で比較することが適切かと思いますので、科学技術・学術政策研究所が示す主要国の政府研究開発負担割合の推移を引用させてもらいます。
引用元:科学技術指標2022・html版 | 科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)
もちろん科学技術への研究開発費は政府のみでなく地方自治体や民間など様々な主体がありますのでこのグラフ一つで日本の科学技術投資が少ないとは言えません。実際は民間部門からの支出額を比較すると日本は他国よりも大きく、トータルで見れば科学技術投資は充分に行われているとすら言えます。
ただ、少なくとも日本は昔から研究開発に対する政府の負担割合が他国よりも低く、政府が積極的に研究開発へお金を出さないことがこのグラフで示されています。
この点からすると、科学技術立国が凋落したというよりはそもそも科学技術立国をやっていたのかどうかのほうが疑問かもしれません。
結言
実際のところ、GDP構成比から分かるように日本は科学技術に基づいた製造業が国家の屋台骨として機能しており、研究予算自体も他国と比べて同等以上には取られています。科学技術で立国している国であることは疑いようがありません。
ただ、科学技術立国を謳うほどお国が負担しているかと言えば、厳しい意見となりますがそれには少し疑問が残ります。