製造業の一部にある誤解を正したい。
品質管理と品質保証の違い
まずは品質保証について説明をしましょう。
品質管理と品質保証は似たような言葉ですが、実際は意味合いが異なります。
品質管理とはQuality Controlをする行為であり、品質を直接的に取り扱います。
対して品質保証とはQuality Assuranceをする行為であり、品質に問題ないことを担保するための間接的で体系的な行動です。
例えば大量生産品の衣服を例としてみましょう。
丈は規格通りか、正しい素材を使えているか、縫製は適切か、そういった商品の品質に関わるものを実際に測定して品質を作り込む行為が品質管理です。
対して、常に良品が市場に投入され続けるためにそれら一連の品質管理プロセスが適切に機能しているかを担保する行為が品質保証となります。
もっと単純に言葉の意味から考えたほうが理解しやすいかもしれません。
保証とは「間違いがない、大丈夫であると認め、責任をもつこと」です。
よって品質保証とは「自社の商品に間違いがなく、責任をもって大丈夫であることを認める行為」だと言えます。
業種や組織の規模によって組織体制は様々異なるため断定的には言えませんが、製造業では大抵の組織に品質を担保するための部署が存在します。ある程度以上の規模があれば品質保証部のように品質を統括的に取り扱う専門部署を持っているものです。
品質保証部に品質管理をさせるな
時々見かける誤解ですが、「品質は品質保証部が責任を持つべき」だと考えるような発想が製造業界隈の一部で見受けられます。
率直に言えば論外です。それは品質保証部の仕事を誤解しています。
個別のプロセスや仕事の品質管理をして品質に責任を取るのはそれぞれの仕事を担当する人々です。製造品質は製造部門の人が責任を負わねばなりませんし、設計品質であれば設計部門、購買品質であれば購買部門が自ら品質管理を行い品質に責任を取らねばなりません。
品質保証部の仕事は個別プロセスの品質管理を肩代わりすることではなく、それら個別プロセスの品質管理が正しく機能しているかどうかを監視することで組織全体での品質管理システムが正しく機能していることを確認し、もって自組織の商品品質やサービス品質を保証することが仕事です。
少し語弊がある表現となりますが、品質保証部とは品質管理を行う部署ではなく、むしろ製造業の中でも「品質管理をしない唯一の部署」であるとまで言えます。
この点を誤解して品質保証部に品質管理を押し付けている組織を時々見かけます。
その手の組織の品質管理は非常にお粗末です。
実際に前線で手を動かしている人は「何か品質問題が起きても品質保証部が対応するから知ったことではない」と品質改善意識を持たなくなり、品質保証部は「なんで俺たちが他部署の尻拭いをせねばならんのだ」と腐ります。そのような組織では誰も彼もが品質を意識することがなく前動続行で同じことを繰り返すだけとなり、品質管理レベルは漸進的に劣化していきます。
これに関して私は別の業界を例として戒めるべきだと考えています。
家を建てた時に屋根瓦が割れていたら、品質保証部を呼びますか?
当然、施工した屋根工を呼ぶでしょう。
病院で医療ミスにより被害を受けたら、品質保証部を呼びますか?
当然、ミスをした医師を呼ぶでしょう。
同様に、市場に不良品を流出したらその不良品の原因となった部署が責任を負うべきであり、品質保証部に任せるのは筋違いというものです。品質管理を実施するのは品質保証部ではなくそれぞれのプロセスを担当する責任者の仕事でなければなりません。
結言
自らの行動の結果に責任を持たなくてよいのであれば人はいくらでも適当になるように、品質保証部に品質管理をやらせるような組織は必ず品質力の劣化を招きます。
自らが担当する仕事の品質管理は自らで行い、それが適切に行われているかどうかを管理監督することが品質保証部の仕事です。
余談
一応、厳密に言えば品質保証部は「自らの品質保証プロセスが適切に行われているか」の品質管理を実施する必要がありますので「品質管理をしない唯一の部署」は過言です。ただ、これくらいはっきり言ったほうが伝わりやすいと思っています。