他者は基本的に変えられないが、変えるための高度な技術はある。
コミュニケーションの違い
対人コミュニケーションにはいくつかの種類とレベルの違いがあります。
まずは対話(dialogue)。
これはコミュニケーションの基礎で、自分の考えを伝えたり相手の考えを聴くことを指します。相互理解が進み建設的なやり取りを構築できることが理想的ですが、本質的にはただ話して聴くだけでも対話は成立します。
次に交流(interaction)や議論(discussion)。
これらはただ話して聴くだけではなく、自分の意見を相手が理解できる形で伝えたり、相手の言い分を理解することを含みます。結果として参加者の行動が変わることもありますが、参加者の行動変容が伴うことは必須ではありません。
その先には討論(debate)。
討論では意見を交換するだけではなく「主張」の形で意見を取り出したり受け止めたりする技術が必要になります。目的は「主張」の客観的な比較であり、必ずしも参加者の行動変容が伴う必要はありません。
最後に説得(persuasion)と納得(acceptance)。
これらは「主張」を持って他者を説き伏せたり、逆に相手から説き伏せられることです。参加者の行動変容が必須要件となるため他のコミュニケーションと比べて難易度が高いものとなります。
なお、説得と納得は同じ階層に位置する概念であり、人の話を聞いて納得することは意外とレベルの高いコミュニケーションだったりします。人を説得して納得させることに長けた人は自身が納得することも得意、かもしれません。
このようにコミュニケーションの種類を分類してみると分かりますが、他者の考えや行動を変えるためにはコミュニケーションの中でも特にレベルが高い説得を行う必要があります。
対人コミュニケーション能力
説得のベストプラクティスは存在しません。
なにせ人は千差万別であり、いつでも誰にでも万能に通用するような銀の弾丸は残念ながら存在しようがないのですから。
説得の技法に関しては「論理・規範・感情・利得」などフレームワークによって分類するものや『人を動かす』でカーネギーが述べているような実際的手法などが代表的ですが、いずれにしてもそれらを相手に合わせてどう使いこなすかは不定形であり、各種技法を使いこなすためには対話・交流・議論・討論といった下位レベルのコミュニケーション技能にも熟達している必要があります。
相手に合わせるだけでなく自分自身の強みを生かすことも必要です。合理性に強みを持つ人もいれば、情動的共感に長けた人もいます。人格で好意を得られる人もいれば、利害調整に優れた人もいます。そのような自らの強みを生かし、時に弱みを克服し、その時々に応じて相手の希望を上手く擦り合わせていくためには長い経験と充分な努力が必要になるでしょう。
要するに説得とは非常に高度な技術であり、対人コミュニケーション能力の最たるものです。これが上手い人はそれだけで飯の種になります。
結言
営業・広報・弁護士・外交官・コンサルタント・政治家・裁判官・カウンセラーなどなど、人を説得することが仕事の大きな部分を占める職業は様々ありますが、いずれも対人コミュニケーションに長けている印象を持つかと思います。
それは事実で、これらの職業は他者を説得して行動を変えることが仕事であり、コミュニケーション能力に長けていなければ務まらないためです。