忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

中国における自動化の強みは継続力にある

 

 普段はネットでバズっているホットな話題を直接的に取り上げることはあまりやらないのですが、今回はちょっと製造業の人間として思うところがあるので開陳してみます。

 

長期的目線

 先日、以下のようなまとめがバズっているのを見かけました。

 

 まず中国における工場の自動化が進んでいることは事実です。弊社も中国に工場を持っているので情報は入ってきますし、私自身が中国へ行って把握した実情を鑑みるに、中国の自動化は相当進んでいることは間違いありません。

 その中国の自動化に対して、自動化のデメリットである「変化に追従することが難しい」「イニシャルコスト・維持管理コストが掛かる」などを理由に否定的或いは懐疑的なコメントが上記引用のまとめには多数見受けられました。

 もちろん自動化は全てを完璧に解決するわけではなく、それが適しているラインと適していないラインがあります。それらをごっちゃにして自動化全体の是非を問うことはあまり意味がありません。

 よって実際には例外が多数あるものの、私自身は中国の自動化を強大な強みを持った脅威だと考えています

 

 中国はITや車、精密機器や半導体など国家として注力すべきと考える分野に対して強烈な補助金政策・減税政策を取っています。そのような国家によるダンピングと自由市場への介入に対してEUは一部の分野で追加関税措置を取っているほどです。世界貿易機関(WTO)からも中国は指摘を受けています。

 補助金政策・減税政策は国際的な問題ではありますが、これにより中国においては自動化の大きなデメリットである「変化に追従することが難しい」「イニシャルコスト・維持管理コストが掛かる」がデメリットとして存在しません

 ラインが老朽化して維持できなくなったらメンテナンスもほどほどに新しく作り直せばよく、古いものはそのまま捨て置き、土地が足りなければ民を別のところへ移住させてでも確保し、イニシャルコストは国家の財布から引き出せばよい、自動化が不得手とする柔軟性は金と規模で解決できる問題であり、広大で巨大な中国にはそれができます

 

善悪ではなく脅威か否か

 国家が福祉ではなく産業へ多く金銭を費やすこと、多数の国民を貧困のままに捨て置いてでも国家全体の競争力を高めようとすること、それは民主主義的な平等思想の下ではできない全体主義的方策であり、中国だからできることです。

 その善悪はさておき、そのような実態から目を背けて中国の自動化を問題視することはあまり意味のある行為とは思えません。

 自由主義国家で働く私たちは中国が国家規模で投資している企業群と自由市場で競争する必要があり、「中長期的に見て恐らく彼らは失敗するだろう」とした希望的観測では短期的に潰されてしまいますし、中長期的であれば勝てるであろう根拠にもなりません。現実には、彼らは自動化のデメリットを踏み倒せる構造を持っていると考えたほうが妥当です。

 もちろん国家対一企業では勝負にもなりませんので、EUやアメリカのような関税措置を取って自国産業を保護するなり何かしらをする必要があるでしょう。

 

結言

 トランプ大統領の関税政策は世界中で様々な批判を生んでいますが、ニュースを眺めてみると「アメリカから中国に対する関税への欧州の批判」はほとんど無いことが分かるかと思います。米中貿易戦争によるEUへの悪影響を指摘するオピニオンは散見されますが、関税自体への批判はまずほとんどありません。それは単純に、欧州も中国へ関税を掛けているためです。アメリカほど露悪的にやっていないだけで。

 ただ、そういった何かしらをせず、いずれ彼らは失敗するだろうとした希望的観測による楽観は、非常に危ういのではないかと私は考えます。