忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

冷凍サイクルの種類と課題、新たな冷凍サイクルについて

 

 私のような冷凍空調業界で食い扶持を稼いでいる一技術者は、新しい冷凍サイクルの登場にちょっとの恐怖と多大な期待を持っていたりします。

 現状の商売に支障をきたしそうで少し怖いが、近未来的な技術発展の魅力と商機には抗えない、そんな感覚です。

 未来の冷凍技術は一体どうなっているのか、どんな面白い物理現象を使って物を冷やすことになるのか、なんとも夢があります。

 

冷熱技術の概略

 何かを温めるのは簡単です。燃焼という身近な化学反応で熱を与えればできます。

 それに対して物から熱を奪うのはひと手間が必要であり、何かを冷やすのは難しいです。

 氷室・打ち水・水瓶なども含めれば冷やす技術自体は紀元前からの歴史を持っていますが、工業的なコールドチェーンが一般に普及して冷凍・冷却が身近になったのは20世紀に入ってからです。

 現代の私たちが実感しているレベルの冷やす技術は意外と歴史が浅いと言えます。

 

 現在、冷やす仕組みとして9割方用いられているのは蒸気圧縮冷凍サイクルです。自動販売機も、家庭用冷蔵庫も、エアコンも、スーパーの食品ケースも、冷凍倉庫も、どれもこれも蒸気圧縮冷凍サイクルが用いられています。

 理由は単純で、効率が良く、冷やせる温度の範囲が広く、コンパクトで安価に作れて、制御しやすい、極めて使い勝手の良いサイクルだからです。

 

冷凍サイクルの区分

 もちろん蒸気圧縮冷凍サイクル以外にも物を冷やす技術は様々あります。

 今回はシンプルなまとめと、課題の整理をしてみましょう。

 具体的な回路図や原理は書くのが大変で面倒なため冷凍関係の教科書を読んでください、と丸投げします。

 

  • 蒸気圧縮冷凍サイクル
    • 特長 
      • 一般的な用途において最も効率が良い
      • 作れる温度の範囲が広い
      • 装置がコンパクトで安価
      • 制御がしやすい
      • 冷媒の選択肢が豊富
    • 課題
      • 冷媒の地球温暖化係数が高い(フロンの問題)
  • 吸収式冷凍サイクル
    • 特長
      • 熱源の自由度が高い
      • 静粛・長寿命
      • 大規模化が容易
    • 課題
      • 冷凍効率が低い
      • 装置が大型で高価
      • 制御・管理が難しい
  • 吸着式冷凍サイクル
    • 特長
      • 低温の熱源でも使える
      • 環境負荷が低い
      • 可動部がほぼ無いため長寿命
    • 課題
      • 出力の密度が低い
      • 装置が大型で高価
      • 吸着材の劣化による寿命
  • エジェクター(ジェット)冷凍サイクル
    • 特長
      • 蒸気圧縮冷凍サイクルよりも理論上高効率で省エネ
    • 課題
      • 最適条件の実現が難しい
      • 技術的な難易度が高い
  • カスケード冷凍サイクル
    • 特長
      • 蒸気圧縮式の延長、極低温を実現
      • 組み合わせ次第で効率が上がる
    • 課題
      • 装置が複雑で高価になる
      • メンテナンス性が悪く家庭用には不向き
  • 磁気冷凍サイクル
    • 特長
      • 理論的には非常に高効率
      • 環境負荷が極めて低い
    • 課題
      • 強地場を作るための装置や材料が高価
      • 実用化の研究中
  • 音響冷凍サイクル
    • 特長
      • 音波でエネルギーのやり取りをするため構造がシンプル
      • 可動部がほぼ無く高寿命
    • 課題
      • 冷凍効率が低い
      • 装置が大型になる
      • 実用化の研究中
  • 熱電冷凍サイクル(ペルチェ効果)
    • 特長
      • 小型・軽量・静音で作れる
      • 精密な温度制御が可能
      • 可動部がなく高寿命
    • 課題
      • 冷凍効率が低い
      • 大容量化が難しい

 

 細かいところを挙げていくと色々と違ったり説明不足もあるのですが、とりあえずはこのようなイメージでよいかと思います。現時点では蒸気圧縮が主流で、吸収・吸着・エジェクター・カスケード・熱電がそれぞれの得意分野で実用、磁気と音響が研究開発中という感じです。

 

 磁石で冷やすとか音波で冷やすとか、なんとも未来感があって期待が膨らみます。

 

液体⇔固体

 冷やす技術は歴史が浅い分、新しい冷凍サイクルがまだまだ発見されています。

 磁気や音響は比較的新しい発見です。

 

 先日は「溶解圧熱量効果」と名付けられた現象による新しい冷凍サイクルが中国で開発されたとニュースになっていました。

 

 通常の蒸気圧縮冷凍サイクルは気体⇔液体の相転移によるヒートポンプですが、この新しい技術は液体⇔固体で低温を作ると論文に書いてあります。

 蒸気圧縮冷凍サイクル最大の課題であるフロンガスのような冷媒での地球温暖化問題が解決するのではと期待されているようです。

 

 ただ、新しい技術には課題がつきもの。

 中国語ですが研究者のリリースを見てみましょう。

利用自研的高压温变测量装置测试了压力循环过程中的原位温变,在600 MPa压力下获得了26.8 K的温降。

(機械翻訳)

「自社開発の高圧下温度変化測定装置を用いて、圧力サイクル過程におけるその場温度変化を測定したところ、600 MPa の圧力下で 26.8 K の温度低下が得られた。」

 

金属所等发现溶解压卡效应----中国科学院金属研究所

 

 約30K冷やせるのは素敵なのですが・・・600MPaですか。

 個人的な感覚ですが、ちょっとまだ、実用化の道は遠そうな気がします。

 すごく夢はあるのですが。

 

圧力のイメージ

 600MPaというと分かり難いかもしれません。

 圧力[MPa]のイメージは以下のような感じです。

  • 0.1MPa:大気圧
  • 0.2MPa:圧力鍋の内圧
  • ~0.4MPa:水道水の水圧
  • 0.9MPa:家庭用LPガスのボンベ圧力
  • 1MPa:法令とかで高圧に認定される圧力
  • ~5MPa:一般的な蒸気圧縮冷凍サイクル
  • ~15MPa:CO2を使った蒸気圧縮冷凍サイクル
  • ~40MPa:油圧ショベルの油圧
  • 100MPa:マリアナ海溝(水面下10kmでの水圧)
  • ~400MPa:ウォータージェットカッターの水圧

 細かい圧力値は規模やグレードによっても変わりますので、大体のイメージです。

 とりあえず600MPaとは物凄い圧力なのだと認識できるかと思います。

 このレベルの圧力だと配管や圧力容器のコストが跳ね上がりますので、なかなか一般に普及させるのは難しいかもしれません。

 もっと低圧で効率の良い溶解液が発見されるまでは期待して待ちましょう。

 

 もしくは600MPaが誤記であって欲しい。

 

結言

 私のような工学屋は「研究室で作られた新しい技術を捏ね繰り回して実用化すること」が使命ですので、新しい技術の登場には人並み以上にワクワクしています。