忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

STEM分野での男女比率に関して

 テーマとしては少し扱いにくいジェンダーに関わる話。

 前提として、本記事における男女差は平均の話であって、それぞれの事柄におけるトップ層の男女比や個々の人が特性に合致するかどうかはまったく別の話です。当然ながら個々人の特性には違いがあり、データには分散が存在します。

 

STEM分野での男女比はなぜ生まれるのか

 もう何年も社会で語られているジェンダー問題の一つがSTEM分野での男女比です。

 STEMとはScience(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の頭文字を取ったものです。厳密な定義がなされている言葉ではないため、広義では生命科学や社会科学、地学や天文学といった分野を含む場合もあります。まあ大雑把に言えば理系科目と言ったところでしょうか。

 STEM分野は明確に男女比が男に偏っています。これは日本に限らず特殊な例を除いてほとんどの国で一般的な事象です。少なくともOECDの38か国で同様の傾向を示しています。

 なぜそのような差異が発生するかは社会文化的な視点や伝統風習を理由として語られることも多いですが、これはほとんどの国で見られる傾向であることからもっと直接的に男女の差異で比較することが適切だと考えます。

 

 よく言われている俗説は「男子のほうが科学や数学に強い」ということですが、これは俗説の域を出ません。OECDのPISA(学習到達度調査)では相対的な強さとして「男子は科学と数学に優れている」「女子は読解力に優れている」という結果が出ていますが、これは絶対的な差異を表したものではなく相対的なものです。

 例えば数学の成績が男子80女子60、読解力の成績が男子60女子80であれば、これは絶対的な差異と言えます。しかしPISAの調査は相対的な強さの評価であり、数学の成績が男子80女子80、読解力の成績が男子60女子100だった場合、たとえ数学の成績が同じだったとしても相対的に見れば男子は数学が得意であり女子は読解力に優れるという判定になる、ということです。

 

 この相対的評価に対して調査をしたのが、2017年と少し古い情報ですが以下の記事です。

 この記事ではカナダの高校生の成績をデータセットとして分析した研究を紹介しています。

On average, females have about the same average grades in UP (“University Preparation”, AT) math and sciences courses as males, but higher grades in English/French and other qualifying courses that count toward the top 6 scores that determine their university rankings. This comparative advantage explains a substantial share of the gender difference in the probability of pursing a STEM major, conditional on being STEM ready at the end of high school.

平均して、女性は大学進学準備課程の数学と理科の平均成績は男性とほぼ同じだが、大学ランキングを決定するトップ6のスコアに数えられる英語/フランス語やその他の資格科目の成績は高い。この比較優位は、高校卒業時にSTEMの準備が整っていることを条件として、STEM専攻に進む確率の男女差のかなりの部分を説明する。

Put (too) simply the only men who are good enough to get into university are men who are good at STEM. Women are good enough to get into non-STEM and STEM fields. Thus, among university students, women dominate in the non-STEM fields and men survive in the STEM fields.

(The former is mathematically certain while the latter is true only given current absolute numbers of male students. If fewer men went to college, women would dominate both fields).

簡単に言うと、大学に入れるほど優秀な男性はSTEMに強い男性だけである。女性は非STEM分野でもSTEM分野でも十分通用する。したがって、大学生のうち非STEM分野では女性が優位に立ち、STEM分野では男性が生き残る。

(前者は数学的に確実だが、後者は現在の男子学生の絶対数からすればそうなる。もし、大学へ行く男性が少なければ、女性がどちらの分野でも優位に立つだろう)

 つまりSTEMの男子比率が高いのは男子がSTEM能力に優れているからではなく、女子がほぼ全ての分野で男子よりも高得点を取っており選択肢が豊富だから行きたいところに行くことができるが、男子はSTEM分野でしか生き残れていないという生存者バイアスである可能性が示唆されています。

 

 これは当研究のみでなく、OECD自体も2019年に述べています。

 In other words, boys scored higher in science and mathematics compared to their all-subjects average while girls scored higher in reading. These differences could explain why boys are more likely than girls to choose careers in STEM fields, even though the overall performance of girls and boys is similar: students may choose their field of study based on their comparative strengths, rather than on their absolute strengths. Girls may be as good as boys in science, but are, on average, likely to be even better in reading.

 つまり、科学と数学は全科目平均と比較して男子の方が得点が高く、読解力は女子の方が得点が高い。このような違いは男女の成績が同じであるにもかかわらず、男子の方が女子よりもSTEM分野でのキャリアを選択する傾向が強い理由を説明することができる。生徒は、絶対的な強みではなく、比較的な強みに基づいて研究分野を選択することができる。女子は科学の成績が男子と同じでも、読解力は平均してさらに優れている可能性がある。

 

STEM分野の男女比をどうすべきか

 このような状況において、一種のアファーマティブアクションとしてSTEM分野の男女比を均一化する政策を取った場合どうなるか。

 それは男子の行く場所が無くなるという問題になりかねないと考えます。なぜならばSTEMに男女での能力差は無く、STEM以外の分野においては女子のほうが好成績なのですから。

 ほとんどの男は大学など行かず高卒で鉱業や農林水産業といった肉体労働に就職すればよい、という考えもあるかもしれませんが、それが男女平等な社会とはどうにも思えません。

 よって個人的な見解ですが、STEM分野に女子を押し込むような格差是正のやり方ではなく、男女比は保育や土木業と同様に選好の差異だとしてそのままとするか、もしくは追い出される男子が少なくなるように枠自体を広げるか、またはSTEM分野の女子比率を高めると同時にSTEM以外の分野で男子が活躍できる方策を実施することを検討したほうが社会の安定と男女平等に資するのではないかと考える次第です。

 

 

余談

 STEMですら生き残れない男は社会から放り出してしまえ、という過激派な方がいらっしゃるかもしれませんが、それはどうにも優しくない考え方かな、と。それをやると治安も悪化しそうですし。