世の中はシンプルで、そして難しい。
バックラッシュ
仕方がないことですが、米大統領が変わった影響によってここのところの国際ニュースはもうアメリカ一色になっています。
やはり停滞ではなく変化が金銭を生むのであり、ビジネス界隈でゲームチェンジャーに人が群がるのも必然というもので、ここしばらくはライターや解説者やジャーナリストの稼ぎ時だなと捻くれた目線で見ています。大人げない視点です。
まあそれはさておき、米共和党サイドが既存システムや言論をガチャガチャとぶっ壊して自勢力の都合が良い方向へ持っていこうとしていることが山ほど報道されていますが、私は自然な成り行きだと思っています。なにも特異なことはなく、ただの周期的な歴史の繰り返しです。
反対側の視点から見れば彼らの行動は言論弾圧や秩序の破壊に見えるものです。
しかし彼らの視点からすれば、自分たちの言論の復興や秩序の再構築だと思っていることでしょう。
彼らの行動を無邪気に弾圧と認定することは、今まで彼らの言論を弾圧してきたことに対する無自覚が過ぎるというものです。これはシンプルにバックラッシュであり、世の中は今まで彼らと同じことを彼らに対してやってきたわけですから。
ちょうどアメリカの保守と革新で派手に意見が割れている極北の部分として「進化論」を例としてみましょう。
私たちからすれば進化論はもはや当たり前の常識であり科学です。
対してアメリカ保守派の原理主義的な層からすれば進化論は神やキリスト教への冒涜であり、彼らは創造論やインテリジェントデザイン論が正統なものだと考えています。
そのような思想の人からすれば彼らの信じる創造論やID論が拒絶されて正しい科学として進化論を押し付けられることは弾圧に他なりません。
”正しさの程度”ではなく”構図”が同じであることに目をつける必要があります。片一方が正しいと思っていることを押し付けることが正当化されるのであれば、もう片一方だってそれをやる権利を有することは公平性の観点から妥当であり、その公平性を損ねてきたことは事実です。彼らからすれば今までやられていたことをやり返しているだけに過ぎません。現在のアメリカで起きていることはやる側とやられる側が反転しただけの、ただのよくあるバックラッシュだと言えます。
正しさを広める方法
彼らのアクション自体はシンプルなバックラッシュとして納得できるものですが、とはいえ、もちろんそれは彼らの言説を全て受け入れる必要があることを意味しません。
ここで私たちが内省すべきは正しさの広め方です。
正しいことを正しいからと押し付けるやり方は反対側からすれば弾圧となります。古代や中世であれば反対勢力を廃滅するまでそれで押し通すことが可能でした。正しさに従わない人は追放したりギロチンに掛けてしまえばいいだけです。
現代の人権思想でそれは許容されません。そのため現代では反対勢力を駆逐することはできず、一方の意見を押し付けるやり方ではどれだけ押し通そうとしても反対勢力は生き残り、巨大な圧力に圧縮されて濃縮されていきます。トランプ政権下にいるやたらと濃度の濃い陰謀論者などはまさにこのような経緯で生じたと言えるでしょう。
現代では誤った情報を攻撃するやり方で正しさを広めることはできません。弾圧的手法はいずれバックラッシュによって同手法をやり返されるばかりです。
現代において正しさを広めるのであれば、”正しさの程度”をぶつけあって叩き合うのではなく、異なる構図を用いることです。
例えば第三者への訴求が方策の一つとして有効となります。反対勢力を攻撃するのではなく、第三者を自陣営に取り込んで拡大することで数的勝利を得る方法です。
これはアポロ計画陰謀論に対するNASAのやり方が良い事例となります。
NASAは陰謀論者に対して直接反論するのではなく、陰謀論と事実を並べて解説し、自分たちの正しさをwebサイトなどで第三者へ開示する方法を取っています。このやり方であれば陰謀論者と泥沼の口論に陥ることもなく、バックラッシュで同構図を取られても痛くなく、しかし着実に正しい情報を広めることが可能です。
結言
彼らのやり口を異常だと直感的に思う気持ちは分かりますが、彼らからすればそれと同じことを今までやられていたと思っていることは認識する必要があります。そこに無自覚なままではいつまで経っても攻撃とバックラッシュによる反撃の繰り返しで社会が疲弊していくばかりです。
ラフな言い方をすれば、「今まで散々ぶん殴っておいて殴り返されたら文句を言うのは筋が通らないだろう」ということです。正しいか正しくないかを競い合う次元に辿り着けてすらいません。正しさを広めるのであればそういった泥沼の戦術以下の罵り合いへ陥らないよう、異なる戦略を持って対峙する必要があります。
余談
一応誤解のないよう補足しておくと、私はこのブログで物事を変革する際にはドラスティックな手法ではなく丁寧で融和的な方法を取るべきだと度々言及している通りで、今の米共和党のようなやり方は下策も下策だと思っています。数年後にはまた大きなバックラッシュが観測されることでしょう。
現象的にそうなることは理解できるものの共感をしているわけではない、こんな馬鹿馬鹿しいことを大国がやらないで欲しい周辺国として迷惑だから、そういった心境です。