忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

戦争は暴力で始まり話し合いで終わる

 

 いや、もう、凄く語りたくない。

 そんな気持ちではありますが、逆張りの誹りを覚悟で語ります。

 

 お題はロシア・ウクライナ問題についてです。

 ああ、本当に語りたくない。個人的な感情と政治的な思考は別で、混同されるのはイヤなのですが、今回は後者の政治的な視点を主に語っていきます。

 

交渉のチャンネル

 昨今の国際情勢に関するメディアや一般人のコメントに「トランプはプーチンとグルなんじゃないか」といった批判があります。ロシアと交渉を行うこと自体を問題視するような論調です。

 これはダメです。一線を越えています。

 私もトランプ大統領のディール内容や放言に同意している訳ではないのでそう言いたくなる気持ちは凄く分かるのですが、交渉のチャンネルを閉ざす方向の批判はダメです。

 

 戦争が終わるまでの道筋は3つ、片方が徹底的に打ちのめされるか、もしくは双方が荒廃するまで疲れ果てるか、あるいは第三者が介入して強引に制止するかですが、いずれにしてもそういった道を辿った末に話し合いが行われることで戦争は終わります。終戦協定の交渉、すなわち話し合いの場こそが戦争終結には重要です。

 そのことを無視して相手を悪魔化し交渉の余地を無くしてしまうと、残る道は言葉ではなく武力ですり潰し合うだけです。それではどちらかが滅びるまで戦争は終わりません。

 クソッタレのロシアと誰かが話し合わなければならない

 そのための交渉チャンネルは反吐が出ようとも維持しなければならない。

 ウクライナも含めて西側諸国の誰もがモスクワまで攻め込んで親玉の首を取ろうなどとは考えておらず、最終的には交渉によって戦争を終結することを目指している。

 どう交渉するかは批判されるべきだが交渉自体はやらなければならない。

 そのことは重々承知しておく必要があります。

 

停戦のチャンスと大国の思惑

 感情的には不同意なのでこれも正直言いたくはないのですが、今は停戦のチャンスではあります。

 その理解のためにはフィンランドの歴史が一つの参考となりそうです。

 ソ連がフィンランドへ侵攻することで始まった1939年の冬戦争において、フィンランドの最高司令官カール・グスタフ・エミール・マンネルヘイム元帥の指揮の下、フィンランドは領土を奪われつつも前線を維持していました。

 政府は前線が維持できていることから諸外国からの支援を受けながらの継戦を考えていましたが、マンネルヘイム元帥は無条件降伏を除き不利な条件であっても即時の講和を支持していました。

『戦える力が残っている今だからこそ和平協定のテーブルに着かねばならない。戦える力を失ったら我々は何を材料に彼らと協定を結べるというのか。残されるのは完全な屈服だけだ。』

 現状はかなり近似した状況です。

 押し返せるほどの戦力があるわけではないものの前線を維持するだけの力はウクライナに残っています。現状の均衡を保てなくなった後ではロシアは交渉へ参加すらしなくなるでしょう。

 

 もちろん侵略者の思惑を達成させることは望ましくありません。

 それは道理です。

 少なくとも”次は自分たち”である欧州の総意としてロシアの有利で終わる停戦はあり得ないと考えているでしょうし、ロシアの隣国である日本も同じ立場です。よって日本としてはロシア有利での停戦を拒絶することに賛同するのが自然ですし、妥当な判断だと言えます。

 

 そもそもロシア占領下における人々の実情を知っていれば、厳しい現実ではあるものの降伏するよりも前線で人が死ぬ方がまだマシです。

 さらに言えば、各国の自由を評価しているFreedom in the World2025での「ロシア占領下のウクライナ地域」は2024年よりもスコアが低下して100点満点中-1点となり、現在世界で一番自由が無い地域と認定されています。

Russian-occupied territories of Ukraine: Country Profile | Freedom House

 この世には戦争よりも悪い状況がある、これはそういうことです。

 

 ただ、アメリカや中国も同様に考えているとは限りません。特にアメリカは"欧米"で括られがちですが、今回は欧州と完全に別の利害関係を持っています。

 別にアメリカや中国と同じ考えを持つ必要はありませんが、その思惑はある程度理解しておく必要があります。

 

 アメリカが現在最も警戒している国は中国です。それはソ連崩壊後一貫して変わりません。ロシアは覇権国家アメリカに挑戦できる力が無く目先の脅威ではないのに対して、中国は絶賛挑戦中の国だからです。

 よって英語圏のメディアやシンクタンクが分析しているように、アメリカはロシアの不安定化を望んでいません。ロシアはインドやベトナムに兵器を供給している中国包囲網の一環であり、下手に崩壊されては困るとすら考えています。

 よってロシアの温存と西側諸国の維持のため、現時点では即時の停戦がアメリカにとっての理想形です。米共和党が停戦を推し進めるのはこのような思惑があります。何もロシアのスパイとかそういった陰謀的視点はいらず、ただただ単純にロシアと仲良くすることは現在のアメリカにとっての利得です。

 アメリカは昔から孤立主義と国際協調主義が揺れ動く国であり、堂々と自国の大戦略を優先するのは昔から変わりません。迷惑な話ではありますが。

 逆に中国からすればロシアの損耗や西側諸国の紐帯が緩むことが国益に資する状態です。権益拡大のため停戦交渉を主導できる立場であれば口を出すものの、そうではない場合には積極介入しないほうが中国にとっての利得になります。だからこそ中国は米ロの接近を拒絶して欧州側へ肩入れすることで戦争継続を望んでいます。

 

 嫌なリアルではありますが、国際社会において国家は自国の利益を基に動きます。人道や正義は後付けです。人道や正義は国家以外の枠組みで行う必要があります。

 それは仕方がないことで、各国の代表者は何よりもまず後背の自国民に責を負っている以上、自国を優先する必要があるためです。一家の大黒柱が収入を隣家に渡していたら意味が分からないように、会社の社長が利益を他社に配っていたら納得がいかないように、国家の代表者はステークホルダーである国民に利益をもたらすことが仕事です。それを批判してはおかしな話になってしまいます。

 各国がそれぞれの利益を実現しようと思惑を張り巡らせているのが国際社会であり、その意図は知っていれば簡単に読み解くことができます。おかしいと思うのはただ単純に知らないだけです。言葉や行動は常に手段であり、必ず何かしらの目的があります。

 「なんでこいつはこんなことを言ったりやったりするんだ、おかしい奴だ」と思った時はそのまま思考停止してしまうのではなく、その言動でどういう効果を狙っているか、その目的を探ってみると良いでしょう。

 そしてもちろん、その目的に賛同する必要はありません

 

結言

 いや、もう私個人の感情的な意見からすれば「アメリカは他にもっと人材がいないのか」と思っているのですが、今あるカードの組み合わせとしてはもう止むを得ない状況でしかないので同意しないまでも状況の理解はする、そんな心境です。

 

 なんともはや、現実は困ります。