忘れん坊の外部記憶域

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熱力学的知見から見た社会の持続可能性

 

 私の工学屋としての知識と趣味である人文社会学の聞きかじり知識をミックスした謎論理の中では比較的気に入っている「熱力学的知見から見た社会の持続可能性」について。

 今回は理系寄りに書いてみたいと思います。

 

持続可能な社会の形

 私たちはSDGsを筆頭に『持続可能な社会』を目指そうと考えています。

 ただ、その持続可能な社会は炭素循環の均衡や資源の再利用といった中立的で静的な社会としてのイメージが主流です。

 たしかに閉じた系の中で無限に循環できる社会を構築できれば持続可能な印象を受けます。しかしそれは熱力学的に見れば現実的ではない空想です。

 

 熱力学第二法則は閉じた系においてエントロピーが常に増大することを示しています。

 エントロピーを一言で表現することは難しいですが、大まかに言えば「乱雑さや不可逆性の度合いを示す状態量」です。「コーヒーに入れたミルクは自然と広がっていく」「部屋は勝手に奇麗になることはない」などがエントロピーを説明する例え話としてよく用いられます。

 熱力学第二法則に基づいて、エネルギーは使われる度に一部が熱として散逸、すなわちエントロピーが増大しますので、完全な再利用は不可能です。エネルギーや物質は常に不可逆性を伴って変化し続けるものであり、これは「永久機関」が理論上存在しえないことを意味します。

 

 エントロピーは熱力学から誕生しましたが、現在では統計学や情報理論でも援用されている幅の広い概念です。

 それらの概念も含めたエントロピーの概念からして、社会そのものも資源を使ってエネルギーを消費し情報を処理する系であり、常にエントロピーを増大させています

 それを否定するための「同じ状態を持続して循環する閉じた円環社会」、一般にイメージされがちな中立的で静的な社会は物理的に不可能です。機械であろうと社会であろうと閉じた系における永久機関はあり得ません。

 

開かれた系としての社会

 エントロピーは常に一方向へ進んで低減せず秩序は失われる一方なのかと言えば、もちろんそうではありません。閉じた系の中ではエントロピーが増大しますが外部とのやり取りをする開かれた系であればエントロピーを低減することができます。

 例えば生物は外部からエネルギーを取り入れることでエントロピーを低減させて内部の秩序を維持しています。これは負のエントロピー、ネゲントロピーと呼ばれるものです。ネゲントロピーは熱力学第二法則に逆らった概念ではなく、外部も含めた全体で見ればエントロピーは増大していますが、個としては内部構造を再編成して秩序を取り戻します。

 社会もまた同様に開かれた系であり、外部環境と相互作用しながら秩序を保っています。率直に言えば今の私たちの社会こそが開かれた系として持続し続けている持続可能な社会そのものです。

 現在のような開かれた系を否定して社会を閉じた系と変更する場合、その先は熱的死以外はありません。

 

 これはある意味で進化論的な認識とも言えるでしょう。

 ダーウィンが提示したように「最も強い者が生き残るのではなく、最も適応する者が生き残る」ものであり、変化を拒む社会ではなく変化を受け入れて自らを変化させる社会こそが生存できます。硬直的な仕組みや固定的な手法は状況の変化に対応できず脆弱です。多様で冗長で試行錯誤が可能な変化する社会だけが予期せぬ事態にも柔軟に対応して持続できます。

 もっと言えば、持続可能な社会に必要なのは「構造」ではなく「能力」だと言えるかもしれません。

 

結言

 もちろん懸念として「外部環境」自体が持たないのではないかと考える気持ちは分かります。私たちの社会は外部環境から低エントロピーの資源を取り入れてネゲントロピーを獲得している以上、外部環境から獲得できる低エントロピー資源を使い果たしたらそれ以上先はありません。

 ただ、それは系をどの範囲で見るかにもよります。

 地球は太陽光のような低エントロピーを受け取り、反対に宇宙へ高エントロピーの熱を放出する開かれた系であり、宇宙を外部環境とした利活用が進めばネゲントロピー生成能力が高まり持続性が向上します。

 極論ではありますが、それこそ太陽光エネルギーの回収効率が著しく上がって使用可能なエネルギーが膨大になれば再資源化でボトルネックとなっているエネルギー問題も解決できますし、宇宙への排熱効率を高めることができれば系のエントロピーを低く保つことが可能でしょう。

 壮大な妄想ではあるものの、脱成長のような「循環による閉じた系」を目指すのではなくも「より開かれた系」と捉えてエントロピー収支に帳尻を合わせる方向のほうがまだ物理に沿っており現実的ではないかと私は考えます。