忘れん坊の外部記憶域

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反社会性を抑えた反社会的活動のススメ

 

 構造的差別に対する反発は既存の社会秩序に対する挑戦となることから、必然的に反社会性を帯びる

 

 これは妥当な見解かと思いますが、個人的には全面的に首肯しかねるところもあります。穏健派ですので反社会的な活動は好みませんし、過激化されて暴力沙汰になったりするのは困ります。

 かといって、構造的差別を解消する試みは否定できません。当然のこととして差別は解消されて然るべきでしょう。

 なにか、穏健派としては程よい新たな道を模索したいところです。

 

多数派からの協力が不可欠

 少し単純化し過ぎではありますが、構造的差別は基本的に多数派から少数派への抑圧の形となります。そして少数派は民主的手続きによる多数決では敵いません。

 よって多数派が言外に肯定している既存の社会構造を攻撃するため、既存の社会秩序においては反社会的と認定される言動が少数派には大なり小なり必要になります。

 このような反社会的活動については、それこそアメリカの公民権運動を筆頭に、人種・性的指向・障害など様々な改革運動において過激派による暴力的活動の歴史的成果が広く喧伝されています。

 

 ただ、個人的にではありますが、そういった反社会的な行動が功を奏したとするのはナラティブ・バイアス(物語化バイアス)の一種だと考えています。行政や大衆と長い時間を掛けて交渉を行った結果もたらされた変化は分かり難いため記録に残らず、過激な活動はターニングポイントとして目立つことから記録されやすい、そういった認知バイアスの影響を多分に受けているのではないでしょうか。

 そもそも既存の社会秩序から生じる構造的差別を解消するためには既存の社会秩序を構築している多数派の協力が不可欠です。多数派が変わらなければ秩序の変革も有り得ず、そしてそういった変化は「ガーっと大声を上げてバーンと殴ればパッと変わる」なんてことはまずありえません。集団を動かすには恐怖によるショックではなく動機付けられた協調が必要であり、そのための対話と意識変革には時間と労力が否応なしに掛かるものです。

 実際、アメリカの黒人差別問題は融和的な白人の協力が不可欠でしたし、バリアフリーの問題だって融和的な組織の技術開発が必要でした。暴力で殴ったから動き出したのではなく、既存秩序側と運動穏健派の長期にわたる交渉こそが物事の変革をもたらしたと考えるべきです。

 

シグナル的効果と情勢の変化

 もちろん歴史的に見て過激派の存在を無意味だとは言いません。過激な反社会的活動にはシグナル的な効果が認められています。騒乱それ自体がターニングポイントでなかったとしても、人々の意識変革を促す効果があったとは言えるでしょう。

 ただし、過激派の存在が効果的に働いたとした物語も、説明的な仮説としては有効でも因果的な確定はできません

 ブラック・パンサー党が無くともキング牧師たちだけで上手くいった可能性はあり、逆に過激派が居なければ失敗していた可能性もあります。

 少なくとも一定の効果があったとしたほうが説明がつくことから、そうした効果は恐らくあったのでしょう。

 

 とはいえそれは歴史的な話であり、江戸時代に効果的だった方法が今も使えるかといえばそうとは限らないように、現代に転用できる論理かどうかは検証が必要です。

 たしかに暴力的な訴えかけや破壊活動が無ければ変革には至らなかった事例は過去にあるでしょう。しかしそれは封建的な時代や独裁国家、せいぜいが未熟な民主主義国家に限定されます。

 暴力以外の手段が無ければ暴力は一定程度許容されるとしても、暴力が肯定できない状況であっては暴力は悪手です。

 そして成熟した民主主義社会は暴力を否定しており、それ以外の代替手段が用意されています。ロビイングに政策提言、パブリックコメントやデモの権利など政治的な手段だけでなく、今は一般人ですら広く世間へ情報発信が可能です。暴力以外の代替手段が様々に用意されているのに暴力を選ぶことは、逆に現代では大衆からの支持を得難くしかねないでしょう。

 

結言

 構造的差別を解消するための社会変革運動が必然的に反社会性を帯びることは避けようがないことです。

 しかし現代において暴力的な手段を取る必要はありません。たとえ過去に暴力的な活動が一定の成果を出したと推論できるのだとしても、それは当時の社会情勢や政治構造に暴力を許容する土壌があっただけであり、現代の先進国は暴力的な活動に依らない代替手段が様々あります。

 暴力しか選択肢が無いから暴力を選ぶことと、暴力以外の選択肢があるのに暴力を選ぶことは、意味合いが大きく変わるものです。

 反社会的な活動と言えども必要な是正や社会運動なのですから、不要な過激さや反社会性は抑えていきましょう。