忘れん坊の外部記憶域

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なぜなぜ分析は難しいから安易に流行らないで欲しい

 問題や課題に対して「なぜ?」を何度も繰り返して真の原因を掘り下げていく手法をなぜなぜ分析と言います。元々はトヨタの大野耐一さんがまとめたものです。大野耐一さんはトヨタ生産方式を体系化した製造業の神様のような人であり、そんな人がまとめた手法の一つ、かつ日本を代表する企業であるトヨタがやっているということから、なぜなぜ分析は製造業で多大な人気を持つ手法になっています。さらに今では製造業に限らずITやマーケティングなど様々な業種で用いられることもあるほどの分析手法です。

なぜなぜ分析が流行る理由

 カイゼン、ジャストインタイム、自働化、ムダとり、平準化などなど、トヨタ生産方式は様々なアイデアと工夫が取り入れられ、さらには誰でも分かりやすい言葉で体系化されているために製造業のバイブルとなっています。実際、適切に導入することができれば生産性は間違いなく向上することでしょう。

 問題としてはトヨタ生産方式が「言うは易く行うは難し」だというところです。実際に導入するには多能工の育成や在庫を無くすための生産管理と生産予測のシステム、各種分析ツールの習熟といった数多のハードルがあります。無数の企業がトヨタの真似をしようと努力しているのになかなか上手く導入できていないのはこれらのハードルが想像よりも遥かに高いからです。トヨタ生産方式が効力を発揮するのは優秀なトヨタの社員があってこそということを忘れて安易な真似事に走った企業は、ロクなカイゼンができなかったり在庫を切らして生産が止まってしまったりと手痛いしっぺ返しを喰らっています。

 このように難しいトヨタ生産方式ですが、その中でもなぜなぜ分析だけは様々な企業や業界で実施するほどに流行っています。他のトヨタ生産方式と違って導入コストや教育コストが掛からず、「なぜ?」を繰り返すだけでできる簡単な手法だ、と考えているからです。

 これは大変な誤解です。なぜなぜ分析で重要なのはやり方や繰り返す回数などの小手先のことではなく、誰がやるかだからです。表面的な模倣で真似できるほどトヨタ生産方式は甘くありません。

なぜなぜ分析は誰がやるかが重要

 簡単な例で説明してみましょう。

 もの凄い腹痛が起きたとします。この腹痛という問題に対して「なぜ?」を繰り返せば真因が見つかるでしょうか。飛行機墜落事故の現場に連れていかれて、「なぜ?」を繰り返して真因を見つけろと言われて見つけることができるでしょうか。犯罪の凶器を渡されて、「なぜ?」を繰り返せば素人が真犯人を探すことができるでしょうか。

 とてもとても当たり前のことなのですが、問題の原因や真因は専門家による分析と調査があって初めて分かります。医者でない人が腹痛の原因を特定することはできませんし、墜落事故の調査ができるのは知識を持った事故調査官だけです。凶器から犯人を追跡できるのは警察や名探偵の他には居ません。

 つまり「なぜ?」を繰り返して問題の真因を見つけることができるのはその道の専門家・プロフェッショナルだけなのです。そういった専門家が問題の原因を深掘りするために「なぜ?」を繰り返そう、というのがなぜなぜ分析であって、「なぜ?」を繰り返せば誰がやっても真因に辿り着けるというわけではないのです。この誰がやるかということを考えずにただ「なぜ?」を繰り返せばいいと考えるのはなぜなぜ分析を完全に誤解しています。

 なぜなぜ分析を導入するにはまず自分たちの抱えている課題に対する専門家を育成することから始めなければいけません。なぜなぜ分析は簡単に見えるかもしれませんが、実のところは決して安易に導入できるものではなく膨大な教育コストや採用コストが必要な手法ということなのです。

余談

 ロジカルシンキングの一つとしてなぜなぜ分析が紹介されている場合がありますが、問題解決・原因追及はロジカルにやればできるという類のものではありません。スマホの電源が付かなくなったとして、私のようなトーシロがどれだけなぜなぜ分析をやろうとも決して真因に辿り着くことはないでしょう。ボタンかな、基盤かな、配線かな、よし分からんから業者に頼もう、となって終わりです。それはそれでロジカルな結論ではありますが・・・ねぇ。