忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

ネガティブフィードバックを欲しがるエンジニア

 当ブログにお越しいただき、あまつさえ賛同や好評といった肯定的なご意見を差し伸べていただける方がおりますことは幸甚の至りです。

 さりながら、このような良好で興趣尽きない様相において述べるには好ましからぬことではございますが、披瀝いたしますと、駁論に至らぬ程度の異論や論評を頂けるとより有難く存じる次第です。

 私自身、あまり人様の御見解に対して異論を述べるつもりもなく、異なる意見であっても逐一否定的な言説を弄することはせずにそっとその場を離れることを良しとしております。自身が行わないような言行を人様に希求するのは心苦しいばかりではございますが、何卒よしなにお計らい願います。

 

丁寧風の文章を書くと違和感が凄い

 そろそろ丁寧風は放り捨てていきましょう、読みにくいですし書きにくいです。丁寧なわけではなく"風"なところが鼻につきますしね。

 

 単純に述べますと、エンジニアというのは職業的マゾヒストなところがあるのです。

 

 ・・・露悪的な表現なので最初にクッションを置いておこうと柔らかい言葉で書き出したのですが、失敗しました、台無しです。高所から避難するために飛び降りたはいいものの、着地用クッションの位置がずれていた、くらいに失敗しています。話の構成がズレズレです。

 

エンジニア・科学者にとって批判は望ましいもの

 過去に幾度か書いていますが、エンジニア、科学者、乃至は理工系の人間というのは異論・反対意見・反証といった別視点を求めています。

確証バイアスをどう避けるか~技術屋の見解

最新記事の5件が真面目な記事で埋まると気落ちするシンドローム

心無い誹謗中傷・・・心ある誹謗中傷はあり得る?~正しい批判の難しさ

 これは好き嫌いの問題ではなく習性に近いものです。反証可能性を持つものが科学である以上、異論こそが持論を補強し修正し誤りを見つけるための最適な方法だと科学者は信仰しています。それゆえ宗教家が神の試練を喜び勇んで受け入れるが如く、科学者は持論とは異なる異論を望んで受け入れなくてはなりませんしそれを尊ぶものなのです。

 反論や異論を嫌う科学者も時々はいますが、あんなものは科学者ではありません、ただの科学屋です。科学に対する信仰心が不足している証拠です。(科学狂信者の発想)

 

 もちろんブログやSNSはアカデミックな場ではありませんので、なんでもかんでも異論反論をぶつけ合っていては口論に発展しかねません。よっていつでもどこでも誰でも推奨するというわけではありませんが、同意だけでなく批評だってもらえると嬉しいと思うのもまたエンジニアの特性だということを伝えておきたく、このようなことを述べてみました。

 もちろん批難や誹謗中傷はいくらエンジニアや科学者でも嬉しくないです、それは恐らくほとんどの人が同意することでしょう。

 

日本人は世界一ネガティブフィードバックを嫌っている

 ネガティブフィードバックとはミスや誤りを指摘して改善することを支援する行動のことです。

 ネガティブフィードバックには直接的な伝え方と間接的な伝え方があります。単刀直入かつ正直に皆の前でも伝えるのが直接的で、ポジティブなワードを織り交ぜてさりげなくやんわりと人前を避けて伝えることが間接的です。どちらの方法を好むかは文化と国民性によって差があることが分かっています。

 ビジネススクールINSEAD(欧州経営大学院)のエリン・メイヤー客員教授の調査によれば、直接的なネガティブフィードバックを最も好むのはロシアやイスラエル、オランダです。反対に間接的なネガティブフィードバックを最も好むのは日本やタイ、インドネシアです。

 意外なことにアメリカは中間くらいに位置しています。人前でのフィードバックは許容されますが直接的な物言いは好まれません。日本人からすればアメリカ人は率直な物言いをするイメージを持っていますが、実際にアメリカ人がネガティブフィードバックを行う際はとてもポジティブな表現を織り交ぜるのです。

「君はとても仕事が早いね、資料の内容も実に素晴らしい、色使いだって完璧だ!この部分にちょっとだけ誤字があるから、これを直してくれればもっともっと良くなるぞ!」

というように、ネガティブなこと一つに対してより多くのポジティブな表現で包むように伝えます。

 日本は間接的なネガティブフィードバックを最も好むと分類されています。つまり上記のような柔らかい表現であっても皆の前で伝えられることは好まず、一対一で行うことを望む傾向にあります。

 またこの分類に属する日本やタイ、インドネシアの人々はネガティブフィードバックをそもそも伝えられること自体を好みません。口頭で伝達するのではなく、自らで気付くように浸透させることが良いとされています。

 

 フィードバックの好みに違いが発生する理由は地学的な影響に依存すると考えられます。他国との交流が少なく同じ言語の民族が生活していた時期が長い地域では文脈を読み取りあうハイコンテクストなコミュニケーションが主流となり、欧米のように多言語の多民族が生活する地域では言葉のやり取りに齟齬が出ないよう直接的なローコンテクストのコミュニケーションが主流となります。

 また移住性も大きな要因でしょう。移住性が高ければ直接的なフィードバックを恐れる必要はありません、問題が生じても移住すればいいだけです。しかし移住性が低く定住せざるを得ない地域では、衝突を避けるために間接的なフィードバックを好むようになることでしょう。

 もちろんその他にも要因は様々考えられます。先ほど例に出したアメリカであれば多民族国家であることによるローコンテクストな文化のため言葉を用いて伝達することを基本としていますが、銃社会であり安易な暴力的表現の発露を好まないことから直接的な物言いは避ける傾向を持っています。

 

 エリン・メイヤーによる分類では、日本とタイは世界で最もハイコンテクストかつ間接的なフィードバックを好む国民性を持つとされています。そのことから、日本人の多くが欧米的なディベートを不得手としているのは文化的背景の違い、コンテクストとフィードバック方法の違いが存在するためだと考えられます。

 これは善悪・上下・能力差という話ではなく、ただ文化的に違いがあるというだけのことです。

 

エンジニア・科学者はちょっと違う

 以上より、日本人は批判をあまり好ましいと考えない風潮があると言えます。批判はまさしく直接的なフィードバックに該当する行為だからです。

 しかしエンジニアや科学者といった人種は少し異なります。批判的思考こそが科学的であるという教育訓練を受けてきているため、むしろ批判を好んでいます。

 日本人向けに日本語で記事を書いておきながら要求するのもまたズレた話ではありますが、アサーティブな表現で異論や批判をもらえるとそれはそれで喜ぶということを表明しておきたかったのです。

 それこそアメリカ的な表現方法が望ましいですね、ポジティブでネガティブを包んで伝えてもらえるとありがたいです。