忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

空気から水を作るにしても限度があるよ!

 理科の授業って大切だなー、とふと思い出したので記録しておきます。

空気から水を作る

 将来的な水資源の枯渇に備えてか、空気から水を作ることを売りにした商品(ウォーターサーバー)が微妙に流行っています。どのくらい流行っているかの市場規模は分からないですが、ここ数年で新規事業者が続々と増えているようです。

 原理はそれほど複雑ではなく、フィルター類で大気中の水分を回収してヒーターで蒸発させて取り出すか、冷凍機で結露させて取り出すかの2つが主流です。取り出した水をろ過して、そのままだと美味しくないのでミネラル等を足すのが今流行りのウォーターサーバーです。

 小さな室内用であれば一日あたり5リットル前後の水を取ることができるようです。大型であったり屋外であればもっと多くの水を取れます。

理科的感覚の有無

 私の業界もこの辺りの製品に関わることがあるのですが、ある時うちの営業さんが話を持ち帰ってきました。

「空気から水を作るウォーターサーバーのメーカーに行ってきたぜ、なんか凄そうな感じだった!」

「なんか流行ってるみたいですね。」

「今設計してるサーバーは個人宅用のらしくて、300Wの冷凍機で1時間に10リットル以上の水を作れるんだって!」

「え、それ聞き間違いじゃないですか?無理ですよ。できたとしても死にますよ?」

「でもそう言ってたんだってば。」

  実際うちの営業さんの聞き間違いだったのですが、このなんと言えばいいのか、理科的感覚と言えばいいのでしょうか、そういうものの有無を感じました。

  • 1時間に10リットルの水を作るにはどのくらいのエネルギーが必要か
  • そもそも室内にはどれくらいの水分があるのか

という理科的なイメージ、感覚を培うためには義務教育って役に立つんだなー、と思った次第です。だって室内の大気中にそんな水分があるわけないじゃないですか・・・よしんばあったとしても、取り出してしまったら部屋がカラッカラになってしまってお肌に悪いにもほどがあります。

 これは2リットルのペットボトルの水を5本分部屋にぶちまけるイメージをしてみれば分かりやすいかもしれません。どれだけ乾燥してる日だって蒸発し切るわけもなく、部屋が水浸しになってしまいます。

エネルギーの概算

 興味の無い人には何も面白くないとは思いますが、ここから簡単な理科と算数の話をしてみましょう。技術屋は理科と算数が大好きな変人が多いのです。ちなみにまったくもって厳密な計算ではなく、イメージレベルの概算です。

 W(ワット)の定義は毎秒1J(ジュール)に等しいエネルギーを生じさせる仕事率ですので、300Wということは1時間当たり1080000Jを生じさせることができます。

 大気を冷やす計算は面倒なのでもう室温は0℃ということにしましょう、凄く寒いです。

 水蒸気を水に変えるには物質の状態変化に必要なエネルギー、潜熱を用います。0℃の水の蒸発潜熱は1g(グラム)当たり2498Jです。あり得ない話ですが300Wの冷凍機が全てロス無く水蒸気にエネルギーを与えた場合、1080000÷2498=432ですので、1時間当たり432gの水蒸気を水に変えることができます。

 厳密には違いますが水は1リットルで1kgですので、つまり300Wの冷凍機は1時間当たり0.43リットルの水を作り出すことができるのです!・・・10リットルには全然足りないですね。実際は損失があるのでもっと少なくなります。

室内の水分量の概算

 次に部屋の水分量を計算してみましょう。

 空気中に含まれる水分量は飽和水蒸気量×相対湿度で求めることができます。日本の相対湿度は年間平均でおよそ70%RHですので、この数字を使いましょう。

 室温はまあ平均的な20℃としてみます。20℃での飽和水蒸気量は1立方メートル当たり12.1gですので、水蒸気量は1立方メートル当たり17.3×0.7=12.1gとなります。

 部屋の広さは適当に高さ2.5mの10畳(16.53平方メートル)とすると、部屋の容積は大体41.3立方メートルです。

 よって部屋にある水蒸気量は12.1×41.3=約500gです。つまり10畳の一部屋にある水は0.5リットルです。やっぱり10リットルも取るだけの水蒸気は部屋には存在していないことが分かりますね。

 

 こういう算数をするのはとても楽しいのですが、どうにも共感を得にくいのが悲しいです。

余談

 現実的にはあり得ないですがこの冷凍機が損失無く完全な効率で水を作った場合、1時間強で部屋の水分が全て失われて相対湿度が0%RHになります。砂漠の相対湿度は約20%RH、ドライサウナでも10%RHありますので、0%RHはもはや宇宙空間のレベルです。これは極めて過酷な環境です。水を作るためにそこまですることは無いと思います、はい。

余談2

 空気から水を作るというコンセプト自体は凄く良いと思います。日本のように電気代が高く水資源が豊富で交通網が完備された国だとあまりメリットを出せないとは思いますが、砂漠地帯や開発途上国ではとても役に立つ装置です。電力網が整備されていない地域でも使用できるように太陽光パネルで水を作る装置が海外のスタートアップ企業によって開発途上国に設置されており、地域に安全な水を供給しているようです。このような活動は応援していきたいものですね。