忘れん坊の外部記憶域

興味を持ったことについて書き散らしています。

満足を積み上げるのもいいけど、不満を減らすことも必要だと思う

 五月、各所のメディアでは風物詩のトピックとして五月病と給料、そしてその両方を合わせた話題が多くなります。つまりモチベーションの大小と給金の大小の相関に関しての話題です。そもそも動機やモチベーションというものは人それぞれなので十把一絡げには言えないと思うのですが、

「給料は多い方がやる気が出る」

「給料が増えてもモチベーションの向上は一時的なもの」

「従業員エンゲージメントを高めるには承認欲求を満たせばいい」

「給料よりも責任を与えればやる気が出る」

というように様々な切り口の言説と出所不明なデータが飛び交うものです。

 今回はそんな従業員エンゲージメント(貢献意欲)について私見を述べます。具体的なデータや資料に基づいた理詰めの話ではなく、何とはなしの雑感です。

 なお日本の従業員エンゲージメントが低い理由については過去にも記事を作成しています。日本の従業員エンゲージメントが低いのは従業員ではなくマネージメントの問題です。

 

満足度を高めればいい?

 この手の話題は『どうやって従業員を満足させて意欲を引き出すか』ということに終始しているように感じます。モチベーションが低い状態を0、高い状態を100とし、如何にして100を引き出すかというような話をしている印象です。

 ただ、そのような0~100だけでは人の行動は決まらないと思うわけです。人は「積極的にやりたい」というような正の方向とは逆向きのベクトル、すなわち「意地でもやりたくない」というような負の方向も持っています。モチベーションの下限は0ではなくマイナスです。だからこそ0~100ではなく-100~100で考えたほうが現実的ではないでしょうか。

 つまるところ、0~100、満足かどうかだけでは指標や考えが不足していると思います。満足と不満を足し合わせた結果がモチベーションや従業員エンゲージメントになるのであり、満足だけでなく不満の度合いも気にしなければいけません。

 例えば給料ひとつとっても、そりゃあ多ければ多いほど雇われの身としては嬉しいでしょうが、額に比例してモチベーションが上がるわけでもありません。同様に給料を半額にしたらモチベーションが半分になるわけでもなくむしろマイナスになり、恐らく大勢の人が不満を持って転職という行動に出るでしょう。

 

 「やりがい搾取」のような経営、「仕事とはお金のためにするもんじゃない」というような言説、給与ではなく承認欲求を満たすべきだという考え、そういったものが世に存在するのは0~100での思考が一部の人々にかなり大きな誤解を生んでいるためかもしれません。

 どれだけ責任と裁量権を与えられたとしても、待遇がそれに見合っていなければ不満が勝るでしょう。

 どれだけ賞賛されて承認欲求が満たされたとしても、衣食住に不自由するのであればそんな仕事は続けられません。

 どれだけ仕事内容が好きでも、管理職や経営者に不満を持つような環境であれば満足して働くのは難しいものです。

 "好き"や"満足"を増やしていく足し算思考もいいのですが、"嫌い"や"不満"を減らしていく引き算思考も必要であり、巧く人を動かしたいのであれば満足を増やすだけではなく不満を減らすことも重要だと考える次第です。

 

仕事は辛いものだという根底

 ここまで書いて思ったこととして、0~100思考のベースにあるのは恐らく「仕事とは辛いものだ」という考えではないでしょうか。仕事において不満はあって当然であり、それを打ち消すために満足を増やそうという考えが根底にあるのかもしれません。

 言いたいことは分からなくもないですが、これは積もる不満に対して満足も積もっていく環境でなければ成立しないでしょう。待遇は向上しないのに不満が打ち消されないのであればそりゃ誰だって納得しないというものです。不満を減らせないのであれば満足を増やすべきで、満足を増やせないのであれば不満を減らすべきです。状況に応じてちゃんと使い分けないといけません。

 

 今日の話は「従業員のモチベーションを高めるのは給料よりも仕事のやりがい」という記事を見て考えました。そのようなデータがあることはまあ分かります、やりがいはあるに越したことはありません。しかしそれは「だから給料は上げなくてもいい」ということにはならないという単純な話です。やりがいが増えることはプラス方向で満足感を与えますが、給料が上がらないことはマイナス方向で不満を覚えることになります。足し引きでちゃんと帳尻が合っているかを考えて欲しいものです。

 

 

余談

 人それぞれではありますが、やりたいことをやるよりもやりたくないことをやらないというような、「満足を増やす」よりも「不満を避ける」方向に重点を置いている人は結構多いと思うのです。だからこそ満足のコントロールよりも不満のコントロールのほうが実は重要なのではないかと愚考します。