忘れん坊の外部記憶域

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改革の進め方〜革新と保守の衝突を避けるには

 先日、設計屋は物事の流れにおける中流であり、インテリと現場の中間に居るという話をしました。その真ん中からの視点から見た革新と保守に関して、特にそれらの衝突を避けることに関する見解を述べていきます。

 

革新と保守の比率

 革新(リベラル)と保守(コンサバ)は時と場合によって意味合いが変わるために言葉を明確に定義するのは難しくありますが、大雑把な分類として「変化を好む層を革新」「変化を望まない層を保守」と分けることができるでしょう。

 革新はインテリに多く、保守は現場に多い思想となります。保守的な思想は体験的なものが多く自身の所属する集団の経験的な知見を身に着けるだけでよいのに対して、革新的な思想は従来社会には存在しない発展的な物事を考える必要があり、そのために教育と教養が必要だからです。さらに単純化してしまえば、生活の上で自然と身につくのが保守、学びによって初めて身につくのが革新です。

 よって都会やインテリ層は革新が強く、田舎や現場層は保守が強くなります。これは世界共通の特徴です。例としてはアメリカが顕著で分かりやすいでしょう。都市部では革新派の民主党が圧倒的に票を集めており、田舎では保守派の共和党が強固な地盤を持っています。

 公平を期すために自身の立ち位置を明確にしておきますと、私自身は革新と保守の中間であり、良く言えば開明的保守派、悪く言えば機会主義者(オポチュニスト)です。世の中に変化は必要であり社会が固着しないよう進歩的な発想を取り入れる必要があるとは考えていますが、そのためにドラスティックな変化を行うべきではなく、日々調整をしながら慎重に手直しをしていくべきだと考えます。

 どっちつかずはずるいと思われるかもしれませんが、仕事柄どちらかに肩入れするほうが問題になるわけで、むしろ開明的保守派であることこそが調整役の設計屋としては最適なのです。

 

革新と保守、インテリと現場は水と油

 変化を好む層と好まない層はなかなか相容れることが出来ません。

 インテリの革新派には「今のままではマズイ、変えなければいけない」という強い危機感があります。対して現場の保守派は「今のままでも上手くいっている、変えて上手くいかなくなったらどうするんだ」という強いリスク忌避の気持ちがあります。これこそは政治や経済、職場や家庭など様々なところで発生している変革とその抵抗勢力という構造です。

 この問題は実利や損得ではなく心理的な障壁が主要因です。リスクの許容度や危機感の捉え方は人それぞれの感性に拠るものであるためです。

 心理面での乖離が拡大激化していくと、双方が互いの言い分を聞けなくなり、意見の衝突ではなく感情の衝突が起きるようになります。そうなっては改革はにっちもさっちもいかず頓挫することになるでしょう。痛みを伴う改革という言葉がありますが、無理に通そうとした改革は多くの場合、痛みしか残らず改革はまったく進まない結果となります。変革を押し付ける側と拒絶する側の衝突による痛みだけが残るわけです。下手をすれば改革どころか衝突の衝撃によって集団自体が崩壊する危険すらあります。

 

言い方は大切

 設計屋はこのような問題と頻繁に向き合うこととなります。インテリの革新派が考えた新しい製品、新しい工法といった進歩的なものは、それがどれほど良くどれだけ優れていたとしても現場の保守派からの反発を受けます。新しい変化を如何に現場へ飲み込ませるか、インテリの発想を現場でどう実現するか、これが中間に位置する設計屋の腕の見せ所です。そのためにも設計屋は革新と保守の双方を理解する必要があります。

 

 間違いなく今よりも利益を稼げる製品や今までよりも簡単で早く楽に作れる工法を持ってくる革新派からすれば、なぜ現場が拒絶するのか分からないことでしょう。なにせ損得で考えれば変えた方が良いことは明々白々なのです。

 しかし損得での数字を押し付ければ押し付けるほど抵抗勢力は強固になります。前述したように、抵抗勢力は損得ではなく心理面が理由であることを理解しなければいけません。

 要は言い方、伝え方だけなのです。「このやり方に変えれば今よりも良くなりますよ」という言葉は裏を返せば「今までのやり方はダメだ」というニュアンスを含みかねないものです。それはもっと過激に言えば、「お前のやり方はダメだ」と突き付けるようなものであり、そんなことを言われては現場が反発するのもやむを得ないでしょう。誰だって努力を否定されることは嫌うものです。もちろん革新派がそう言いたいわけではないことは分かりますが、言外にそのニュアンスで取られかねない時点でコミュニケーションはすれ違い始めてしまいます。

 忘れてはいけないこととして、今よりも良くなることが事実だとしても今までのやり方を全て否定すべきではないということです。その今までのやり方を愚直にこなしてきた現場の力によって社会や組織が回ってきたことも事実であり、そこにはリスペクトが必要です。

 変革に失敗するのは多くの場合抵抗勢力に対する尊敬が無いからです。それは現場の自己効力感を削ぐものであり、たとえ最終的に変革を押し通せたとしても現場の積極性は損なわれてしまいます。

 

変革を進めたい人への助言

 順調に変革を進めたいのであれば感情的な衝突とならないよう相手に聞いて貰える言い方をする以外はありません。内容云々ではなく、相手の気持ちを理解することが先です。

 そして、考えを押し付けるのではなく、貴方の力をお借りしたいという協力の姿勢で入るべきです。抵抗勢力と敵対するのではなく、攻撃するのでもなく、無視するのでもなく、仲間に引き入れることで初めて変革を進めることが出来ます。

 相手が大切に思っていることを尊重しなければ、自身が大切に思っていることを尊重してもらえるはずなんて無いのです。

 

 

余談

 保守的な現場のおっちゃん、職人気質で頑固なおっさんとはよく話をしますが、彼らは革新派のインテリを嫌っているわけではありません。まあ頭でっかちだと馬鹿にすることはありますが、それはインテリから馬鹿にされたくないという気持ちの裏返しなだけです。

 彼らは連帯感・仲間意識をとても大事にしています。革新派はそういった気持ちを無視したり無理を通そうとするから彼らも反発するのです。

 私も設計屋の図面書きなので現場のおっちゃんからインテリ側として扱われますが、彼らに「お前のためならしょうがねえ、やってやんよ」と言われることこそが私の喜びであり、仕事における勲章の一つだと思っています。